ただ、君に笑っていてほしかった。~30日の奇跡と、空白の19日の秘密~

「LU:NA.だー!」
 ドーム近くのショッピングモール。
 ある一角にやけに人が集まっていると思ったら……。
 LU:NA.がアンバサダーを務めている化粧水の売り場だった。
 なんか、購入したら、LU:NA.のカードがついてくるらしい。
「まあ、化粧水とかいらないし。カードは欲しいけど……」
 雪宮(ゆきみや)は、買うつもりはないらしい。
 驚きだ。
 推しのものって、なんでも欲しくなるわけじゃないんだ……。
「ねぇ、どうする?芽依(めい)、本屋でも行く?」
「うん!」
 電車では、やることがなかったけど、電車降りてからも、列に並んでガチャを回しに行く雪宮(ゆきみや)についていくの、結構しんどかった。
 それで次は、本、ね……。
 そこまで好きでもないんだよなー。
「……葉月(はづき)、どうする?別行動でもする?」
『え、あ、あー、うん。そうだね』
「うん、じゃあ、18時くらいに、ごはん食べるから、その時に集合ね!……まあ、会えなくてもなんとかなるでしょ!ライブは19時からだからね!今日はスタンド下段だから、会えなかったら、探してね!じゃあ!」
 適当だなぁ……。
 会えなかったら探して、って……。
 まあ、いいや。
 本屋には正直興味ないし。
 適当に雑貨屋でも……。
『……っ⁉︎』
 なんで?
 なんで、あの人たちが……⁉︎


『ねえ(あきら)さん、明日はショッピングモールに行くのよね?』

『そうだな……。大阪のショッピングモールに行く。もうすぐ璃子(りこ)ちゃんの誕生日だからな』


 ああ、そうだ。
 そうだった。
 昨日、言っていたじゃないか。
 大阪のショッピングモールに行く、って。
『なんで、よりによって……っ』
 別行動なんて、するんじゃなかった。
 雪宮(ゆきみや)と一緒に本屋にいれば、会わなかったかもしれないのに。
「それにしても、今日人が多いわね」
「京セラでライブやるんでしょ?LU:NA.ってグループが」
 早く、ここから立ち去りたいのに、体が動かない。
「へぇー、そうだったの。聞いたことあるわ、LU:NA.」
 俺が入ろうとしていた雑貨屋に入っていく。
 もう、最悪だ。
 ショッピングモールから出てすぐの場所で、雪宮(ゆきみや)を待つ。
 18時くらいにはごはんを食べると言っていたな。
 確か、おにぎりを持っていたっけ。
 外で食べるのかなー。
 それにしても、もう少し時間があるなぁー。
『暇だなー』
 雪宮(ゆきみや)、いつ出てくるのかな。
 わからない。
 1人で、こんなところに突っ立っているのは、俺くらいだ。
 他にも1人の人はいるけれど、待ち合わせしていそうだったり、1人でライブに行きそうだったり、ショッピングモールで買い物をした帰りだったりと、突っ立っているような人はいない。
『俺、なんでこうなっちゃったんだろう』
 雑貨屋を見る予定だったのに……。
 時間があれば、ゲームセンターにも行こうと思っていたけれど、あの人たちを、もう見たくない。
 ……ここにいても、鉢合わせするかもな。
『もう、いやだ……』

  ズキリ ズキリ

 お腹が痛い。
 頭が痛い。
 吐き気がする。
 浮遊感がある。
 どうしよう、どうしよう。
 誰か、助けて……っ。





葉月(はづき)?」
『ゆ、きみ、や、さん……』
 うずくまって何分か経ってから、雪宮(ゆきみや)は建物の中から出てきた。
「大丈夫?」
 周りの人に聞こえないように、小声で話しかけてくる。
『うん、だ、いじょ、うぶ』
 まだ少し辛いけれど、雪宮(ゆきみや)が来てくれたらおかげで、少し楽になった。
「そう?じゃあ、あっちだから」
 ここに来るのは3回目らしい。
 中2の頃に来たLU:NA.のライブとKey Me;のライブ。
 どちらも、同じ場所でごはんを食べたそうだ。
 人が少なくて、ごはんを食べるのに良いらしい。
「うん、今回もあんまりいないね」
 5、6人はいるけれど、今まで通ってきた道の人の数に比べれば、ものすごく少ない。
「じゃあ、夕飯にしよっか」
「うん!」
 雪宮(ゆきみや)は、カバンの中からおにぎりを取り出す。
 そういえば、雪宮(ゆきみや)のカバン、同じものを持っている人、結構いたな……。
「どしたの?葉月(はづき)
 カバンを必死に漁っている母親を見て、話すチャンスだと思ったのだろうか。
 俺の方を見て、小声で話しかけてくる。
『え?ああ、いや、別に……』
「そう?ならいいけど……」
 ツナマヨおにぎりを頬張る雪宮(ゆきみや)
「なんか、悪いことしちゃったかもなー、って思って」
『え?悪いこと?』
「ねえ、芽依(めい)。サンドイッチ、お母さんどこに入れたっけ?」
「え?カバンの中でしょ?」
「そうなんだけど、ないのよ……」
 会話は中止。
 俺は、その辺を見ることにした。
 ……幽霊って、ずっと浮いてるんだな…………。
 ずっとフワフワしていて、なんだか変な感じだ。
 自分じゃないみたい。
 どれだけ歩いても疲れないし、お腹も空かない。
 モノにも触れられない。
 幽霊って、つまらない。
 ここにいる人は、全員がキラキラしている。
 ……推しがいる、って、良いなぁ。
『俺にも、そういう生きがいがあれば、死ななかったのかもな……』
 なんて、今考えても意味なんてない。
『どうせ、俺は幽霊だ。もう生き返ることなんて……』
「あ、いたいた、葉月(はづき)!」
雪宮(ゆきみや)さん……』
「もう!急いで!会場の中入るんだから!」
 意外と時間が経っていた。
『っていうか、俺、どこにいれば良いの?』
芽依(めい)ー!何してるのー?入るよー!」
「はーい!ほら、早く!」
『え、あ、うん』
 雪宮(ゆきみや)について行く。
 へー、ライブって、こんな感じなんだ……。
芽依(めい)、こっちだよね?」
「え?……ああ、うん。こっち」
 スタンド下段って、どれくらい見れるんだろう?
「この列だよね?」
「うん、そうそう」
 意外と見える。
葉月(はづき)、通路にいる?……アリーナとか行ってもいいけど」
『ありー、な……。……うーん。とりあえず、その辺ブラブラしとくよ』
「あ、そっか、うん。分かった」
 LU:NA.について、俺は知らない。
 俺なんかが、来る場所じゃないよな。
 チケットが外れて、来れなかったファンもいるのに……。
『あれっ⁉︎君、幽霊?』
『え⁉︎』
 振り向くと、明るく、活発そうな女子高生が俺を見ていた。
『そう、ですけど……』
『やっぱり!私、三輪(みわ) 梨桜(りお)っていうの!……その制服、夏芽高校?』
『え、あ、はい』
 俺が死んだ時に着ていたのは、制服だったから、今も服は制服だ。
『君、名前は?』
『……葉月(はづき)麻人(あさと)、です』
『へー、珍しい名字だね』
 三輪(みわ) 梨桜(りお)と名乗った彼女は、塔英高校(とうえいこうこう)の制服を着ていた。
『君、芽依(めい)ちゃんと一緒にいたでしょ?』
『え、そうですけど……。知り合いですか?』
『うん。知り合いだよ。芽依(めい)ちゃんとは、小学校が一緒でね!君は?』
 雪宮(ゆきみや)の友達か……。
『あ、雪宮(ゆきみや)さんとは、中学から一緒で……』
『あー!芽依(めい)ちゃんも夏芽高校だったね!納得!』
「あ、いた!梨桜(りお)ー」
『じゃあね、葉月(はづき)くん。芽依(めい)ちゃんと中学一緒なら、意外と家近いかもね。幽霊同士、仲良くしようね。』
 梨桜(りお)さんは、迎えにきた女の人と一緒に去って行った。
 ……あの人は、どうして死んだんだろう?
 自殺する人には見えなかった。
『事故、とか?』
 ……まあ、考えても分からないか。
 特にどこか行きたい場所もなかったので、俺は雪宮(ゆきみや)の近くまで戻った。