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「今日は本当にすみませんでした」
もう〝何度目〟か分からない決まり文句を言葉にして頭を下げる。
「そんなに何度も謝らなくて大丈夫。次、気をつけてくれればそれでいいから」
あたしの隣のデスクは先輩の席。
入社したときからお世話になっている先輩だ。
「……はい。本当にすみませんでした」
何度もミスをしてそのたびに先輩がフォローをしてくれている。
「明日は休みだからゆっくり休んで、また月曜日よろしくね」
「……はい。お疲れさまでした」
就業時間になり、あたしはオフィスをあとにする。
「はあ〜……」
エレベーターに乗ってため息をついた。
この会社に就職してまだ半年。自分には全く向いていない仕事だと入社してすぐに気がついた。
けれど、辞めることはできない。
なぜならば、ここが唯一の内定先だったからだ。四十近くの会社の説明会へ行き、面接を受けて合格したのが十五社。二次面接まで残ったのが八社。そして合格したのがここだけだった。
あたしは、物心ついた頃からとにかく運がついていない。明日遠足だというときに熱を出して行けないこともあったし、小学三年生のとき運動会のリレーでゴール直前に転んで逆転負けになったことがある。天気予報で晴れだと言っていたから手ぶらで行ったら帰りに雨が降ってずぶ濡れになったこともあるし、電車に間に合わなくて遅刻したこともある。
何をするにも失敗ばかりの連続で、うまくいかないことの方が多かった。
この会社に入ってもそれは変わらない。毎日のようにミスをして、その度に謝罪をして、うまくできない自分に自己嫌悪。
あたし、この仕事、絶対向いてない気がする。
今日、彼氏と会う予定だし、また仕事の話を聞いてもらおう。
【今から会社出るよ。いつもの場所で待ち合わせでいい?】
スマホを取り出して彼氏にメッセージを送る。
送ってしばらくして返信がくる。
【ごめん、今日行けない】
仕事が忙しいのかな。ほんとは今日話を聞いてほしかったけれど仕方がない。
【わかった。じゃあ、明日はどう?】
送ったあと、エレベーターが一階に着くので降りる。
エントランスで社員証を機械にかざして会社を出ると、ピコンッと音が鳴る。
【ごめん、明日も無理。というかもう会えない】
内容を確認して、あたしの足が止まる。
「……え?」
会えない、って。
【どういうこと?】
送ると、すぐに返事がくる。
【もう歩実に会えない。別れよう】
その文面だけでは理解できずに、あたしはすぐに通話ボタンを押した。
けれど、どれだけ待っても正志は出ない。
もう一度切ったあとに再度、通話をかけるが出る気配はない。
「……なんで、なんで?」
どうして振られてしまったのかわけがわからずに、あたしはしばらくその場に立ち尽くした。



