不思議なことに、思考が切り替わった途端に頭の中のミーアキャットは増殖をやめました。頭の中からアウトプットしたミーアキャットを作品にするにあたり、いかにミーアキャット達を描くか考えるようになりました。
再び下絵に向き合うもすぐに行き詰まった俺は、いつものようにTシャツにジャージで美術室の床に寝転がります。
「先輩、先輩」
彼が小動物のように、とことこやってきました。俺はすぐに気づくことができず、仰向けになって見ていた本を隠すことができませんでした。
俺の隣に、ころりと横になりました。
「制服が汚れますよ」
「汚れても良いもん」
彼は目を細めて微笑みます。
「先輩、無防備でしたね」
「ええ、無防備でした」
「無防備最高です」
彼は本を覗き込みます。
「かわなべ、きょうさい」
「そうです、河鍋暁斎」
河鍋《かわなべ》暁斎《きょうさい》。幕末と明治初期に生きた画家です。浮世絵と日本画の良いとこ取りをした作風で、美人画も妖怪絵も残しました。弟子のひとりに、建築家、ジョサイア・コンドルがいます。暁斎は豪放磊落な人物と評する研究者もいる一方で、実は繊細な性格だったと論じている人もいます。
「先輩の一番好きな作品はありますか?」
「どれも好きなので難しいですが……」
悩みに悩んだ結果、「横たわる美人と猫」のページをを見せることにしました。髪を軽く玉結びにした女性が、簾の影に横たわって猫を見つめる様子が描かれています。わずかに乱れた裾はその辺のエロ本よりも艶かしいです。
「……几帳の際すこし入りたるほどに」
彼が何か呟きました。俺が訊き返そうとすると、彼は唇を一度きゅっと結び、微笑みました。
「好きです」
何事かというように、美術室の隅の野良猫が起き上がりました。
「先輩の好きなものが、好きです」
少しだけ、彼にあなたを重ねてしまいました。俺を励まして背中を押してくれた、あなたと。
再び下絵に向き合うもすぐに行き詰まった俺は、いつものようにTシャツにジャージで美術室の床に寝転がります。
「先輩、先輩」
彼が小動物のように、とことこやってきました。俺はすぐに気づくことができず、仰向けになって見ていた本を隠すことができませんでした。
俺の隣に、ころりと横になりました。
「制服が汚れますよ」
「汚れても良いもん」
彼は目を細めて微笑みます。
「先輩、無防備でしたね」
「ええ、無防備でした」
「無防備最高です」
彼は本を覗き込みます。
「かわなべ、きょうさい」
「そうです、河鍋暁斎」
河鍋《かわなべ》暁斎《きょうさい》。幕末と明治初期に生きた画家です。浮世絵と日本画の良いとこ取りをした作風で、美人画も妖怪絵も残しました。弟子のひとりに、建築家、ジョサイア・コンドルがいます。暁斎は豪放磊落な人物と評する研究者もいる一方で、実は繊細な性格だったと論じている人もいます。
「先輩の一番好きな作品はありますか?」
「どれも好きなので難しいですが……」
悩みに悩んだ結果、「横たわる美人と猫」のページをを見せることにしました。髪を軽く玉結びにした女性が、簾の影に横たわって猫を見つめる様子が描かれています。わずかに乱れた裾はその辺のエロ本よりも艶かしいです。
「……几帳の際すこし入りたるほどに」
彼が何か呟きました。俺が訊き返そうとすると、彼は唇を一度きゅっと結び、微笑みました。
「好きです」
何事かというように、美術室の隅の野良猫が起き上がりました。
「先輩の好きなものが、好きです」
少しだけ、彼にあなたを重ねてしまいました。俺を励まして背中を押してくれた、あなたと。

