腹を見せて寝転がっていた猫が起き上がりました。少年の発言に興味を持ったのでしょうか。
「先輩の絵が好きです! 去年のオープンスクールで見た絵が忘れられなくて、文化祭にも見に来ました! 着物の女の人が光に向かって手を伸ばす絵が、すっごく素敵に見えて、オープンスクールでも文化祭でも見られたのが最高に嬉しかったです! 俺も絵が描きたくて、描き続けたくて、その……!」
 彼は一気に喋り、言葉を詰まらせます。続きを促そうとしましたが、その時機には次の言葉が出てきました。
「入部希望です!」
 有り体に申し上げると、あなたの居ない美術部を存続させる気はありません。新たな美術の教師兼美術部の顧問は部に関心が無く、廃部の危機にある現在も特に何も言いません。そんな顧問だからこそ、俺は気ままに部室に出入りしてごろ寝できるのかもしれません。
「駄目……ですか?」
「駄目じゃないですよ」
 彼が入部したところで、存続の危機は(まぬか)れません。あなたが居ない美術部なんて、俺には関係ありません。
「良かった……! よろしくお願いします!」
 俺の気持ちに気づく由もない彼は、心の底から嬉しそうに顔を綻ばせました。屈託ないその表情は、俺の中でミーアキャットを無限増殖させるのに充分でした。