夢を見ていました。あなたと過ごした数か月。短くもかけがえのない、永遠の時間でした。
 あなたは、俺なんかが手を伸ばしても届かない、まっすぐに伸びてゆく向日葵のような人でした。眩しさに目を細め、近づきたくて手を伸ばし、触れることは叶わないとわかっていても、手を伸ばすことを諦めたくなかった。永遠に叶わないと知らずに。


 薫る風が美術室を通り抜けます。美術部のスペースの床に落とした下絵が風に煽られ、去ってゆきました。
 あなたはいつも、溜息をつきながら下絵を拾ってくれます。自分で拾いなさい、と(たしな)めるあなたの声が、俺は好きでした。
「外まで飛ばされてましたよ!」
 あなたでない者の声に、俺は目を開けました。制服の白シャツは脱ぎ捨てインナーの黒Tシャツにジャージのズボンで美術室の床に寝転がり、この高校に住み着いた野良猫に添い寝された俺の顔を覗き込んでいるのは、真新しいブレザーに着させられた可愛らしい男子生徒。今月入学したばかりの新入生です。
 あなた相手だったら、寝転んだまま下絵を受け取っていたところでしょう。しかし、相手は面識の無い新入生。礼儀も兼ねて、起き上がってから受け取ることにしました。起き上がって胡座をかいた俺に対し、床に膝をつく彼。今どきの若い子は礼儀正しいようです。
「拾ってくれて、ありがとうございます」
「……あ」
 彼は下絵から手が離れたのに、固まって動きません。目はしっかり、俺を見据え、汚れなき白い喉が動くのが見えました。
「あの!」
 彼は意を決したように口を開きました。
「好きです!」