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――見つけた。御主人だ!
車が停まっている間を通って、御主人は向こう側に歩いていこうとしている。あちら側に渡り切ってしまう前にと、おれはその腕を掴んで引きとめた。
「見つけた!」
「……どちら様ですか?」
「なぁ! おれと遊ぶぞ!」
――さぁ、何をして遊ぼうか。猫の時には家の中で一緒に昼寝をしたり、御主人が買ってくれたおもちゃで遊ぶことくらいしかできなかった。だけど人間の姿である今なら、色々な遊びができそうだ。前に御主人がしたいって言っていた、“おにごっこ”や“きゃっちぼーる”をしてみるのもいいかもしれないな。
ワクワクしながら御主人の返答を待つ。
何か考え込むような様子で、御主人の肩くらいまでしか背丈がないおれをジッと見下ろしていた御主人だったけど、気づけば掴んでいた手は叩き落されてしまった。
「君のような知り合いはいないよ。誰かと勘違いしてるんじゃないの?」
機械的な声。冷たい目。――おれを拒絶するまなざしだ。
御主人は、呆然としているおれを置いて、スタスタと歩いていってしまった。
(……御主人のあんな顔、はじめて見たな)
笑顔にしたいと思ってここまできたのに、むしろ嫌な気持ちにさせてしまったみたいだ。
悲しくて、悲しくて、心臓がぎゅうぎゅうにつぶれちゃいそうだ。痛くて苦しくて、どうしたらいいのか分からない。
その場で俯いていたら、歩いてきた大柄な男の人にぶつかってしまった。男の人は気にせずに歩いていってしまったけど、おれはよろけて転びそうになってしまう。だけど、誰かに手を掴まれたおかげで、転倒することはなかった。



