(……御主人、笑ってない)

そこに想像していた、望んでいた御主人の姿は見られなかった。

たくさんの人がいる中で、御主人は一人ぼっちで座っている。
過去に目にすることがあった、無理に笑ったような、ヘンテコな顔ですらない。無表情の御主人は、ひどくつまらなそうで、寂しそうに見えた。

「……にゃこ。お前は優しい子です。自分は後で構わないからと、転生の番を他の者たちに譲ってあげていましたね。愛する者を残したまま天界にやってきて、悲しみに暮れていた者たちを、励ましてあげている姿も見ていました。そんなお前に、チャンスをあげましょう」
「……チャンス?」
「はい。“にゃこ”として記憶がある状態で、一日だけ下界へおりることを許可します。人間の姿であれば、下界の者と話すことも可能ですよ」

転生するとなれば、基本的に前世の記憶は消去される。手違いで薄っすら記憶が残っている症例もあるそうだが、基本的にはあり得ないことだ。

――にゃことしてのおれなら、御主人を笑顔にしてあげられるかもしれない。

「……おれ、御主人に会ってくるよ!」

おれが御主人を、もう一度笑顔にしてみせるんだ。
神様がにこりと微笑めば、おれの身体は眩い光に包まれた。

「いってらっしゃい、にゃこ」