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「本当にいいのかい? 順番を譲ってもらって」
「あぁ、構わないさ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうな、猫くん」

おれは今、空のずっとずっと上にあるという、天界にいる。
何故かといえば、おれが死んでしまったからだ。
どうやらおれは、散歩中に、信号無視、とやらで飛び出してきた車に轢かれて命を落としたらしい。天界にいる神様と名乗るやつが教えてくれた。
おれが天界にきてから、もう数年の月日が経っている。

「また転生の順番を譲ってやったのですね」

やってきたのは、神様だ。何ていうか、いつもきらきら、ふわふわしてるんだよな。
不思議な感じのやつだけど、話していて嫌な感じはしないし、むしろ落ち着くんだ。

「まぁ、ここでボーッとしながら過ごすのも悪くはないしな」
「お前は、早く転生したいとは思わないのですか?」
「転生っていっても、前の姿に戻れるわけじゃないんだろ?」
「そうですね」
「ならいい」

また御主人の猫として生まれ変わることができるっていうなら、すっごく嬉しいけどさ。
転生しちゃったら、前世の記憶とやらは全て忘れてしまうらしいんだ。
おれはまだ、御主人のことを忘れたくはなかった。

「そうですか。……うん、決めました。今日は気分がいい。特別に、お前が言う御主人とやらの今の姿を、見せてあげましょう」

そう言った神様が片手を掲げれば、近くにあった小さな雲がふわりと近づいてきた。

「覗いてごらん」

御主人とは、きちんとサヨナラをすることもできなかった。
お別れをしてから、もう何年も経っている。

御主人は、どんな風に成長しているんだろう。まだ勉強を頑張っているのだろうか。友達はできただろうか。強がりで、一人で隠れて泣こうとするところは相変わらずなのだろうか。だとしたら、おれの代わりに、誰かがそばにいてくれたらいいな。……笑ってくれていたらいいな。

ドキドキしながら、神様に言われた通り、雲の中を覗き込んでみた。
そこには、すっかり大人の姿に成長した、御主人の姿が映っていた。だけど……。