ソイツとの出会いは、寒い冬の日だった。

「おまえ、一人ぼっちなの? ……よし、ボクのお家においでよ!」

生まれてすぐに捨てられて、寒空の下で震えていたおれを見つけてくれたのは、人間の子どもだった。

「ボクはソウタっていうんだ!」

おれの御主人となる人間は、ソウタというらしい。
小さな背丈には大きすぎるように感じる、艶々とした真っ黒なカバンを背負っていた。
おれを抱いたまま家に帰ると、ソウタは大人の女の人に、すごくすごく怒られていた。
だけど長い話が終わると、床でジッと座っていたおれを抱き上げて、泥や埃にまみれた汚い身体を優しく撫でてくれた。

「今日からボクたちは家族で、友達だからね! よろしくね!」

――そう言って笑いかけてくれたのを、よく覚えている。



「うーん、ねこ……の鳴き声は、にゃんだし……にゃ、にゃ……そうだ、にゃこ! にゃこにしよう! にゃっこにゃこ~! ふふ、声に出すだけで、何だかにこにこしちゃうなぁ。君の名前は、“にゃこ”だよ。改めてよろしくね、にゃこ!」

ウンウン首を動かしながら悩んでいた御主人は、パッと顔を上げたかと思えば、にこにこと屈託のない笑みを浮かべてそう言った。

“にゃこ”とは、おれの名前らしい。
そう言えば、外に放り出される前、家の中にいた俺と似た姿をした猫は、ハンナと呼ばれていた気がする。そうか、おれは“にゃこ”になるのか。
……変な名前だな。でも、悪い気はしない。

「にゃぁーご」

返事をするようにひと鳴きすれば、御主人はまたニコニコと笑いながら、おれを抱きしめた。
御主人の手は小さくて、いつも温かい。この手に触れられるのもまた、悪くはないなと思った。