彼はテテだった。僕の、大好きだったテテ。
小学校低学年の頃、学校終わるのが早くて両親がいる病院に行ってはよく2人で遊んでた。
年は1つ下だけど小学生の僕は全く気にならなかったし、テテは幼さもあって可愛くて…
僕はテテと呼び、テテもテテと名乗ってた。
可愛いくて、いつも守ってあげたかった。僕だけに弱音を吐いて甘えてくれて、それが僕の自信になった。
2人だけの絆、秘密、約束が幸せだった。
何で女の子って思い込んでたんだろう。
何ですぐテテって気付かなかったんだろう。
将来の進路で悩んでると話すと、テテの為に医者になると言い回っていたのは僕なのに逆にテテのせいで余計迷っていると思いこむ。
…泣かないで。
急に湧き上がる懐かしい、愛しい気持ちが抑えきれなくなりそうだから。
今までの恋愛で僕の愛情は普通より薄いんだと思ってた。実際ダンスやゲームをしたり、病院で過ごす事の方が好きだったから。そう、思っていたのに。
咳き込むテテを見て忘れてた夢の…本来の意味を思い出す。ロウソクで毎日のように願っていた事。
…僕の力で治せる病気、軽くなる病気、医者になって助けられますように。今もこんなに楽にしてあげたいと思う。願う。
……テテの事が好きだったから。好きだった。今は……?
…久しぶりに会ったばかりなのに、昔と変わらず素直で僕の気持ちを考えて優先してくれる優しさ。好きを簡単に超えれた。
男の人だとわかっても簡単に愛しい。
病院のプレイルーム。さっきまでの子供達の賑やかさは無くなり、子供達や看護師さん、誰も来る気配は無い。
…あんまり食べて無いのかな、人の事あまり言えないけど…大きな背丈、ガッチリした肩だけど痩せてる身体を抱きしめた。
僕が将来の事で悩んでるから…そのせいでの泣いてるの?
愛しくて、自然な行動。思ったより近くで彼が僕の方へ向いたから…キス。
抑えられなかった。自然な流れ。
顔を離すと、真っ直ぐ僕を見てくるテテ。
…儚げ……って言葉が似合う、男らしいけど綺麗な瞳…
「…あのさ、みことはさ…
女の子みたいだった僕じゃなくて、
…今の僕に……キスしたってこと?」
「……ごめん、つい…」
「…あの頃の可愛さなんて残ってなくても、いいの?」
「…フッ…可愛いけど?今も」
そんな事を気にするテル君が可愛くて、真っ直ぐに見つめ合ったまま、僕は吹き出してしまった。
するとテル君はすかさず不貞腐れた表情になる。そんな顔も可愛いが…
「笑わないでよ…凄く気になるとこだよ。
…将来の事も…僕は…
尊の邪魔になるかも知れないって…先生にも…」
「先生?」
「先生、尊のお父さん。先生も、心配して…」
…また声が上ずるテル君。若干しゃがむような体制だったテル君が背筋を伸ばしたからか、視線に距離が出来る。そんな距離を縮めようと、僕も背筋を伸ばし、テル君を見上げた。
「……なに?お父さんって?邪魔って?」
「いや、直接、僕と尊の仲を心配してとかじゃ…
そんな事で言われたんじゃないのかもだけど、
実際ずっと尊といられなかったのは、
先生の助言で田舎行ったりしたから…」
「え?僕達が結婚約束するほど仲良かったから?
テテに田舎を勧めたとか?
考えすぎだよ!や、まぁ…確実ではないけど…
それは、考えすぎ。そもそも親に反対されても僕は…」
「……僕は?」
決定的な言葉を言うには勢いに任せても恥ずかしくて…そんな僕に、甘えるように首を傾けて可愛く聞いてくるテル君。
「ッ、僕は、テテ、テル君が好きッ」
言い終わらないで、顔を大きな両手で包まれて、唇を唇で塞がれた。さっきの重なるだけのキスとは違って…
ずるい。男らしく、けど甘く、何度も重ねたり、食べられてるような…角度を変えたりして深く、長いキス。
ゆっくりと唇を離す代わりに、おでこ、鼻はすりすりとくっ付いたりしながら…目を開けると視線が重なった。
「……嬉しい」
テル君の小さな声での囁き声は、掠れていて、ドキドキが治らない。しかも小さい頃の様な可愛い笑顔。さっきまでの笑顔と違って、弾けるような笑顔。
「……僕は…人と付き合うとかしないで、
尊との事を思い出しながら
自分の体とだけ向き合って来たけど…
これからは尊と向き合って生きて行きたい。
尊となら…僕の全部で付き合って行きたい」
「……はい。
これからは、僕がテテの体と向き合いますので」
「えっ?ちょ、やらしい意味で?」
「ち!違うよ!病気と向き合うって事だよ!」
真面目に話してるのに、僕が下心があるように取られて…冗談だろうけど、恥ずかしすぎる。
耐えきれずにこの場から逃げようと動き出そうとしたけど、長い腕でホールドされてキツく抱きしめられた。
「…ありがと」
「悩みが晴れた気がするんだ。
真剣に医者になりたいって思い出したし」
「かっこいいなぁ…尊は」
キツく抱きしめられながら、左右に動かれる。
苦しいけど、幸せだ。
「尊。僕と付き合ってくださいッ」
「………はい」
小さい頃、きちんと言えてたかどうかも覚えてないけど、好きだったテテに、今も愛しいテテに、正式にお付き合いを申し込まれた。そしてプロポーズも。

