祈りの為のロウソクも北風で火を灯す事が出来無い。
君は何の為に生まれてきたの?
幸せを願う事さえ手伝ってくれないの?
寒さで脳が冬眠したがり動く事が面倒で、凍える冬空の下、屋上のベンチに寝転んでいた。
「死にたいの?」
近くで声がした。僕に言ってる…のかな。近くに誰も居ないはず。
何故か冷たい風が鎮まり目を開けると、暖かそうなダウン、マフラー、耳当てをして完全防備な男が立っていた。ちょっと目つきが悪いくらいのスッキリした大きな瞳で僕を不思議そうに見てる。
「ここで寝てたら死んじゃうよ?
この病院のみんなにも迷惑だと思う」
風上側に立ったまま、彼がしていたマフラーを僕に頭から巻きつけてきた。彼の温もりが残っていて、頬が直接暖まる。
「あったか…」
温もりに素直に反応して、ゆっくりと起き上がってベンチに座り直した。彼はポケットから使い捨てだけど熱いくらいのカイロをだし、僕の手に直接握らせ…にっこり笑って去っていってしまった。
ここは僕の父、小児科と内科の病院。母親も昔は看護師だったし今も手伝ってる。僕も…将来は継ぐ。その為に医学部を受験する予定だ。
彼の笑顔…何処かで見覚えがあるような…
目も鼻も口も…
あらゆるパーツがバランス良く並んで、冷たくなりそうな顔なのにそれらで作られた笑顔は暖かだった。
笑顔が懐かしく感じた…
本気で脳が冬眠したかな…
思い出せないだけなのか、気のせいか…名前を聞けば良かった。
病院の屋上から暖房がきいている室内に入っても冷え切った悴む手でカイロを握り、足速に彼の姿を追いかけるのにマフラーが落ちないようにもう片方の手で掴みながら走った。
彼の姿は見つからず、受付の人に彼の容姿を伝え、探していると訊ねると多分 '木村 耀' という名前で、内科に来ていたはずだけど会計も薬の受渡しも済んでいるから帰ったんじゃないか、と教えてくれた。受付の人、僕がここの息子と知っているから教えてくれたかと思うとなんだか申し訳なく、いつもより愛想良くお礼を伝えた。
うちの病院は、大学病院程大きくないけど入院も一応出来る設備があって、個人病院の割には大きい。目の前にバス停もあり利用してる人は多い。
バス停に彼の姿、'木村 耀'という名の彼の姿は無かった。
そのままバスに乗って帰り、明日からの冬休み…帰ってもまた1人の夕方か…外には冬休みに入って楽しそうにはしゃぐ学生。
僕はこれから何を目指せばいいんだろ…
『結局あんまり会えないし、私達別れよう?』
『…そうだね。お互い受験に集中して…
ゴメンね。会う時間…全くなくて…
今までありがとうね』
昨日の会話を思い出しては少し落ち込む。
冬休みの計画、受験勉強が主だとしても、付き合ってればそれなりに会う計画を立ててデートもしたいと思うはず。普通。僕は普通の事ができなかったから別れたいと思われるのも当たり前…
高校生活、彼女もいたし、好きだった。
けどダンスも好き。ゲームも好き。何より親の病院へ行って、手伝いと称して子供達と遊ぶ事が大好きだった。
10歳上の兄は病院を継がず、ゲーム、IT系に勤めてる。
別に跡を継げって言われた訳じゃないけど、僕は小さい頃から自分で継ぐものだと思っていたし、公言していた。
それが今になって、ダンスか医療かゲーム関係か…将来の事を決める時期が来て悩んでしまう。
…往生際が悪い自分にも呆れる。
受験勉強の為の勉強道具をリュックに詰め、借りているマフラーを首に巻き使わせて貰う。
昨日の彼に会えるかな。…昨日通院したから今日は来ないかな。
また次の日、おとといの彼に会えるかな、と考える。
…おととい通院したから今日は来ないかな。
……1週間後。
そろそろ通院で…今日こそ返せるかな。
病院内の小さなカフェで勉強をして、息抜きに子供達と遊ぶ。そして彼の姿を探す日々が続いていた。
「大きい子がいるなと思ったら、君かー!」
プレイルーム。背中から大きな声を掛けられて、子供達と一緒に積み木を高く積み上げていたのにびっくりして崩してしまった。
「「「あーーあー!」」」
子供達と一緒になる彼の叫び声。
「あ!ゴメン!また作るから!けどちょっと待ってて!
お兄ちゃんこの人に返す物持ってこないと」
「え?別にいいよ。遊んでからでも」
彼も子供達と遊ぶ事に慣れてるようで、一緒に積み木をしたりぬいぐるみで皆んなに話しかけたり。何十分も思い切り遊んで、みんな良く笑い、僕も思い切り笑えた。
「みんなー、先生が会いに来るから
部屋に帰って待つ時間だよー」
15時になり、回診の為に看護師さんがプレイルームから子供達を病室へ誘導する。
残された僕と彼。彼はさっきよりもニコニコな笑顔でこっちを見てるから少し照れる。
「…木村 耀くん?で合ってるかな?
ごめん、受付の人に聞いたんだ。
マフラーとカイロ、返さなきゃと思って。
ありがとう。この前は助かりました」
「…何かあったの?この前」
「え、まぁいろいろ…」
言いたくないから濁そうとしたけど…
「いろいろ?言ってみて?
…ろうそくで何を祈ろうとしたの?」
助けてくれたし…隠す程でも無いか…
「…あの日、…別れた彼女への懺悔プラス
彼女がこれから幸せに…ってのと…
いつもの様に、子供達…病気が治って
早く元気になりますように…って……」
「やっぱり優しいんだね。尊は」
…僕の名前を知っていた。子供達からはお兄ちゃんとしか呼ばれてい無い。
「けど…淋しいな。結婚の約束までした仲なのに、
僕の事忘れてるし…彼女がいたとは…」
淋しいといいながら、嬉しそうな笑顔の彼。
彼と結婚の約束?そんなはずは無い。彼は男だし、18年の人生の中で、誰とも結婚の話なんて…
"ぼく、テテと結婚する!"
幼い頃、この病院で一緒に遊んでた女の子。彼女は喘息で、よく入院してて…彼女はテテで…
「テル…テテ??」
「あ、思い出してくれた?
もうすぐ結婚できる年齢になるね」
…遠い昔の記憶、今何となく思い出した……女の子だと思っていたテテが、目の前にいる彼で…?
結婚の話…まさか信じてる訳ないよな…
信じてたら少し怖い…
けど……テテが僕に向ける笑顔…
なぜこんなに目が離せないんだろう。
なぜこんなに心臓が早く動くんだろう。
なぜ僕は、彼にキスをしたいと思うんだろう。
君は何の為に生まれてきたの?
幸せを願う事さえ手伝ってくれないの?
寒さで脳が冬眠したがり動く事が面倒で、凍える冬空の下、屋上のベンチに寝転んでいた。
「死にたいの?」
近くで声がした。僕に言ってる…のかな。近くに誰も居ないはず。
何故か冷たい風が鎮まり目を開けると、暖かそうなダウン、マフラー、耳当てをして完全防備な男が立っていた。ちょっと目つきが悪いくらいのスッキリした大きな瞳で僕を不思議そうに見てる。
「ここで寝てたら死んじゃうよ?
この病院のみんなにも迷惑だと思う」
風上側に立ったまま、彼がしていたマフラーを僕に頭から巻きつけてきた。彼の温もりが残っていて、頬が直接暖まる。
「あったか…」
温もりに素直に反応して、ゆっくりと起き上がってベンチに座り直した。彼はポケットから使い捨てだけど熱いくらいのカイロをだし、僕の手に直接握らせ…にっこり笑って去っていってしまった。
ここは僕の父、小児科と内科の病院。母親も昔は看護師だったし今も手伝ってる。僕も…将来は継ぐ。その為に医学部を受験する予定だ。
彼の笑顔…何処かで見覚えがあるような…
目も鼻も口も…
あらゆるパーツがバランス良く並んで、冷たくなりそうな顔なのにそれらで作られた笑顔は暖かだった。
笑顔が懐かしく感じた…
本気で脳が冬眠したかな…
思い出せないだけなのか、気のせいか…名前を聞けば良かった。
病院の屋上から暖房がきいている室内に入っても冷え切った悴む手でカイロを握り、足速に彼の姿を追いかけるのにマフラーが落ちないようにもう片方の手で掴みながら走った。
彼の姿は見つからず、受付の人に彼の容姿を伝え、探していると訊ねると多分 '木村 耀' という名前で、内科に来ていたはずだけど会計も薬の受渡しも済んでいるから帰ったんじゃないか、と教えてくれた。受付の人、僕がここの息子と知っているから教えてくれたかと思うとなんだか申し訳なく、いつもより愛想良くお礼を伝えた。
うちの病院は、大学病院程大きくないけど入院も一応出来る設備があって、個人病院の割には大きい。目の前にバス停もあり利用してる人は多い。
バス停に彼の姿、'木村 耀'という名の彼の姿は無かった。
そのままバスに乗って帰り、明日からの冬休み…帰ってもまた1人の夕方か…外には冬休みに入って楽しそうにはしゃぐ学生。
僕はこれから何を目指せばいいんだろ…
『結局あんまり会えないし、私達別れよう?』
『…そうだね。お互い受験に集中して…
ゴメンね。会う時間…全くなくて…
今までありがとうね』
昨日の会話を思い出しては少し落ち込む。
冬休みの計画、受験勉強が主だとしても、付き合ってればそれなりに会う計画を立ててデートもしたいと思うはず。普通。僕は普通の事ができなかったから別れたいと思われるのも当たり前…
高校生活、彼女もいたし、好きだった。
けどダンスも好き。ゲームも好き。何より親の病院へ行って、手伝いと称して子供達と遊ぶ事が大好きだった。
10歳上の兄は病院を継がず、ゲーム、IT系に勤めてる。
別に跡を継げって言われた訳じゃないけど、僕は小さい頃から自分で継ぐものだと思っていたし、公言していた。
それが今になって、ダンスか医療かゲーム関係か…将来の事を決める時期が来て悩んでしまう。
…往生際が悪い自分にも呆れる。
受験勉強の為の勉強道具をリュックに詰め、借りているマフラーを首に巻き使わせて貰う。
昨日の彼に会えるかな。…昨日通院したから今日は来ないかな。
また次の日、おとといの彼に会えるかな、と考える。
…おととい通院したから今日は来ないかな。
……1週間後。
そろそろ通院で…今日こそ返せるかな。
病院内の小さなカフェで勉強をして、息抜きに子供達と遊ぶ。そして彼の姿を探す日々が続いていた。
「大きい子がいるなと思ったら、君かー!」
プレイルーム。背中から大きな声を掛けられて、子供達と一緒に積み木を高く積み上げていたのにびっくりして崩してしまった。
「「「あーーあー!」」」
子供達と一緒になる彼の叫び声。
「あ!ゴメン!また作るから!けどちょっと待ってて!
お兄ちゃんこの人に返す物持ってこないと」
「え?別にいいよ。遊んでからでも」
彼も子供達と遊ぶ事に慣れてるようで、一緒に積み木をしたりぬいぐるみで皆んなに話しかけたり。何十分も思い切り遊んで、みんな良く笑い、僕も思い切り笑えた。
「みんなー、先生が会いに来るから
部屋に帰って待つ時間だよー」
15時になり、回診の為に看護師さんがプレイルームから子供達を病室へ誘導する。
残された僕と彼。彼はさっきよりもニコニコな笑顔でこっちを見てるから少し照れる。
「…木村 耀くん?で合ってるかな?
ごめん、受付の人に聞いたんだ。
マフラーとカイロ、返さなきゃと思って。
ありがとう。この前は助かりました」
「…何かあったの?この前」
「え、まぁいろいろ…」
言いたくないから濁そうとしたけど…
「いろいろ?言ってみて?
…ろうそくで何を祈ろうとしたの?」
助けてくれたし…隠す程でも無いか…
「…あの日、…別れた彼女への懺悔プラス
彼女がこれから幸せに…ってのと…
いつもの様に、子供達…病気が治って
早く元気になりますように…って……」
「やっぱり優しいんだね。尊は」
…僕の名前を知っていた。子供達からはお兄ちゃんとしか呼ばれてい無い。
「けど…淋しいな。結婚の約束までした仲なのに、
僕の事忘れてるし…彼女がいたとは…」
淋しいといいながら、嬉しそうな笑顔の彼。
彼と結婚の約束?そんなはずは無い。彼は男だし、18年の人生の中で、誰とも結婚の話なんて…
"ぼく、テテと結婚する!"
幼い頃、この病院で一緒に遊んでた女の子。彼女は喘息で、よく入院してて…彼女はテテで…
「テル…テテ??」
「あ、思い出してくれた?
もうすぐ結婚できる年齢になるね」
…遠い昔の記憶、今何となく思い出した……女の子だと思っていたテテが、目の前にいる彼で…?
結婚の話…まさか信じてる訳ないよな…
信じてたら少し怖い…
けど……テテが僕に向ける笑顔…
なぜこんなに目が離せないんだろう。
なぜこんなに心臓が早く動くんだろう。
なぜ僕は、彼にキスをしたいと思うんだろう。

