手を繋がなくても、今日も愛おしい

 古藤が食器を洗い終わりリビングに戻ると波喜は持参したギターを鳴らしていた。
 波喜の家に行っても古藤が居ようが構うことなくギターを奏でている。
 最初は自分の存在は無視かとイラついたこともあったが、逆に言えば古藤が居ること自体が波喜にとっては自然なことで、気を遣うことなく素のままでいられることだと解釈することにした。
 今回の旅行でも波喜がギターを手放さないことは想定内だった。
 波喜が奏でるのは流行りのJ-POPもあれば聞いたこともない欧米の曲もあった。
 その日の気分で弾き語る曲は変わる。
 その細く華奢な指でギターのコードを押さえ弦を弾く波喜の姿は美しい。古藤は気づくとスマホのカメラで何枚もその姿を収めていた。

「また撮ってる……」

 波喜はそう言うが拒否されることはない。

「いいじゃん。好きな男のベストショット撮れるってサイコーだろ」

 波喜は自分がギターを弾く姿を古藤が写真を撮っていること自体は嬉しかった。
 ただ何時間も続くこのギター弾きをよく我慢してくれているなと気にすることも増えた。どこかで何か言って来るのではないかと思ったが辛抱強く付き合ってくれている。
 恐らく今日も何時間続くのだろうかと考えているのだろう。
 でも、今日は心に決めたことがあった。
 古藤は突然、ギターの音色が止まったことに驚き顔を上げると、波喜はギターを置いて古藤の目の前に座りなおした。

「え、何?」

 思いがけない行動に戸惑う。

「……今日はしていいよ……っていうか古藤としたい」

 はにかみながら古藤の顔を両手で包むと優しくキスをする。
 古藤は心の準備が出来ていなかったためすぐに対応ができない。

「ちょ、ちょっと待って。いいのか? ホントに?」
「うん……でも俺初めてだから……」

 古藤はその言葉を聞くと波喜をキツく抱きしめる。

「大丈夫だよ。優しくするから。波喜を抱けるのが嬉しい」

 そのまま波喜の手を取り、恋人繋ぎをすると寝室に向かった。