梓豪の妃賓は多い。可馨はその中でも一番若く、一番容姿が優れているものの、それも数年以内に塗り替えられるだろう。

 多くの文人や武人、貴族たちが若い娘を後宮に差し出す。楊家がそうであったように、娘を梓豪の妃賓とし、将来の皇帝の身内になりたがる人は大勢いるのだ。

 ……初恋相手にはふさわしくはないわね。

 16歳の可馨にとって、この恋は初めての恋だった。

 胸が裂けるほどに苦しい。それなのに、恋に期待をしてしまっている自分自身がいた。

 眠っている梓豪を起こさないように隣に転がり、寝顔を見つめる。それだけが許された特権のような気がした。

 ……恋をしてしまった。

 恋をするつもりはなかった。

 そうすれば気弱な女性を演じていても心が痛まずにすんだはずだ。恋をしているかのような演技をするつもりだった。

 うっかりと本気で惚れてしまった。

「陛下」

 可馨は鳥がさえずるような声で呟いた。

「お慕いしておりますわ」

 可馨の言葉は届かない。

 それでいいと思っていた。


* * *


 翌日も翌々日も梓豪は、充媛宮に足を運んだ。

 後宮では皇太子の母親である昭儀、王朱亞から寵愛を奪い取ったと噂になった。

 ……陛下の寵愛は私のものよ。

 可馨は手を緩めなかった。

 夜の営みでは妓女として得て来た色の使い方を行使し、他の妃賓と差をつける。女であることを売り物としている妓女としての技は、梓豪を虜にしてしまった。

 可馨は芸事も得意としている。梓豪が望めば楽器を弾き、舞を踊り、歌を披露した。毎回、なにかと芸事を披露しているのにもかかわらず、毎回、新鮮な驚きを与え続けてきた。それが寵愛を与えられた秘密だ。

「可馨は愛らしいな」

 梓豪は可馨の髪に触れる。

 寵愛する妃賓の中でも可馨は特別な待遇を与えられた。九賓の中で最下位という充媛にもかかわらず、数多くの宝石や衣裳を贈り物として与えられた。

 中には子ども用のベッドも含まれていた。

 かなり気が早いものの、毎日のように可馨の元を訪れていては時間の問題だろう。