「天女か?」

 梓豪は問いかける。

 天の帝の使いである天女は存在していると信じられているものの、実際に目にした者はいない。

 ……そんなわけがないのに。

 それほどに舞に魅了されたのだろう。

 天女に見間違えられるほどに美しい舞だった。

「いいえ」

 可馨は小さな声で否定した。

 それに対し、梓豪は愛おしそうに腰に手を回す。

「緊張しているのか」

「……はい」

「そうか。かわいらしいな」

 梓豪の好みは大人しい気弱な女性だ。

 可馨は気弱な女性を演じなければならなかった。本来の姿では愛してもらえないとわかっているからこそ、演技をし続けなければならない。皇帝を騙すのは罪だ。しかし、ばれなければ罪を罰することはできない。

 ……どうして、心が痛むの。

 可馨は心が痛んだ。

 騙していることに罪悪感を覚えるのは初めてだった。両親の前で気弱な少女を演じている時も、妓女として誇り高い女性を演じている時も、痛まなかったのにもかかわらず、梓豪を前にすると罪悪感が心を傷つけるのだ。

 ……これが恋だというのかしら。

 本来の姿では愛してはもらえない。

 その事実が心を傷つけた。

「すぐに緊張を解いてやろう。安心して、身を任せなさい」

「はい、陛下」

「素直な子だ。楊家にこのような美女がいたとは思いもしなかったな」

 梓豪は可馨をベッドに押し倒した。


* * *


 ……私の初めてが。

 行為が終わり、疲れ切ったように眠る梓豪に思いを馳せる。

 ……これが私の愛しい人。

 20歳も年上の夫を前にして小さな恋心が生まれた。

 その恋は悲劇を生む。

 恋をしてしまったからこそ、数多くの女性が苦しんできた。