楊家の三女が後宮入りをした。彼女は、気弱で大人しく、絶世の美女である。

 その噂はすぐに後宮中を駆け巡った。

 ……陛下は36歳だったかしら。

 20歳も年上の男性の元に嫁がされたことは、不満だった。しかも、大勢いる妃賓の内の一人であり、与えられたくらいは充媛だ。九賓の中でも一番下の位だった。

 充媛宮の寝室に案内され、皇帝が来るのを待つ。

 しばらくすると扉が叩かれ、侍女を引き連れた男性が姿を見せた。

「特技は?」

 皇帝、() 梓豪(ズーハオ)は興味なさそうな声で問いかける。

 大勢の妃賓を抱える梓豪にとって、可馨は若い女にすぎなかった。

「舞でございます、陛下」

 可馨は立ち上がり、すぐに礼の姿勢をとる。

 梓豪は可馨の言葉に興味を持ったようだ。椅子に腰をかけ、可馨を見つめる。

「舞ってみよ」

 梓豪は侍女を慣れたように下がらせながら、命じた。

 それに対し、可馨は小さな声で返事をしてから、息を吸った。

 舞を披露する。

 天女が降りたかのように華麗な舞だった。楽器の演奏がない代わりに歌を披露しながら、舞を続ける。大人しい美女が披露する舞に梓豪は惹きつけられた。

 ……この視線を知っている。

 可馨は色欲にまみれた男の視線を知っている。

 それを理解しているからこそ、柔らかな笑みを携えて舞を披露する。

 ……落ちた。

 寵愛を受けることになるだろう。

 梓豪は可馨の舞を熱い視線で見続けた。

 か弱く天女のように舞いを披露する若い女を手に入れたいという欲を掻き立てるのは、可馨の得意技だ。煽るように舞を披露し続ける。

「もういい」

 梓豪は舞を止めるように声をかけた。

 その言葉に従うように可馨は動きを止め、礼の姿勢をとる。

「美しかった」

「ありがとうございます、陛下」

「こちらに来なさい」

 梓豪はベッドに移動した。それに続くように可馨もベッドに座る。