後宮入りをしてから早いもので一年の月日が経った。

 この日は充媛宮に医師が呼ばれていた。医師は助産もする。日が昇り始めた頃から苦しみだした可馨に対し、医師はようやくの思いで子を抱き上げた。

 可馨の第一子の誕生である。

「楊充媛様、おめでとうございます。男児にございます」

 医師の言葉に可馨は微笑んだ。

 そして、産まれて来たばかりの子を抱きしめる。

 神聖な出産の場所には皇帝である梓豪も立ち入ることができず、近くの部屋で待機をしていた。元気な産声を聞き、従者の止めも聞かず、部屋に入ってきた。

 その眼は輝いていた。

「可馨! よくやった!」

 梓豪はベッドの上にいる可馨に声をかける。

 ……無粋な人。

 外に子を連れて行くまで待てなかったのだろう。

「陛下。男児にございます」

 可馨は嬉しそうに笑った。

 ……皇太子、邪魔になったわね。

 男児を手に入れた。

 皇太子に選ばれているのは第一公子だ。六歳になる子どもを手にかけるのには抵抗があるものの、可馨の欲は収まりそうもない。

 ……どうにかして、この子を皇帝にしなければ。

 欲が膨らむ。

 梓豪は生まれてきたばかりの子の手を指で触れる。

「そうか。第三公子か」

「はい」

「名を子涵(ズーハン)としよう」

 梓豪は事前に男児の名を用意してあったのだろう。

 ……子涵。

 第三公子、李 子涵は泣き声をあげる。

 生まれてきたばかりの我が子が愛おしくてしかたがなかった。

 ……読み方を似せたのかしら。

 可馨は与えられた我が子の名を拒むことはしない。

 皇帝から名を授かるのは公子や公主の特権だ。直接、名を与えられるのは寵愛されている妃賓の子である証でもあった。