毎夜のことのように、梓豪は可馨の元を訪れる。

 約束を交わしたかのように訪れる姿に淡い恋心はときめいてしまった。

 後宮では可馨のことを皇帝の新たな寵妃と呼ぶ声が多く、多くの妃賓たちの自尊心を傷つけた。だからこそ、庭を荒らされたのだろう。

 荒れた庭を見つめる。

 大量の落ち葉だけでなく、大量の虫たちも放り込まれている。それを見て、気弱な女性を演じる可馨はふらりと倒れそうになるところを女官に支えられる。

「楊充媛様」

 女官に声をかけられ、可馨は冷や汗を拭う。

 本当に気絶をしてしまいそうになる演技は得意だった。実際に気絶はしたことはないものの、血色は悪く、今にも倒れそうな顔つきで女官を見る。

 女官は心配していた。

 楊家を支える使用人は誰一人連れてきていない。

 充媛宮にいる女官はすべて梓豪が信頼している者たちばかりだ。優秀な人材でなければならないと、後宮入りした時にいた充媛宮の女官たちには下働きをさせ、梓豪が選んだ女官だけを可馨の傍にいさせるようにした。

 その対応は異例のものだった。

「妃賓から恨まれるということは、今後も、あるでしょう」

「……そんなの、恐ろしいわ」

「しかたがないことです。陛下の寵愛を受ける者は同じような目に遭うものですから」

 女官の言葉に可馨は気を失いそうになる。

 ……くだらないわ。

 気弱な女性は衝撃を受けなければならない。

 しかし、可馨にとってこの程度の嫌がらせは想定内だった。

 ……呪殺でもされるかと思ったけど。

 李帝国には呪術が存在する。

 気功とは違い、呪術の術を知っている者ならば誰でも扱うことができるものだ。楊家では呪術を一般教養のように扱い、楊家の血筋の者は誰もが扱えるように教育を施してきた。

 ……くだらない嫌がらせね。

 可馨はため息を飲み込む。

 そして、不安そうな顔をして女官を見た。

「ご安心くださいませ。充媛様には指一本触れさせません」

 女官は武芸に長けていた。

 見たことはないため、朱家に仕えている家系の者ではないだろう。