芸能を生業とし、時には色を売る妓女の中に飛び抜けて人気の者がいた。梅花(バイカ)と呼ばれる妓女は舞を披露し、人々を魅了する。

 梅花は色を売らない妓女だった。

 芸事だけで人気者となり、その身に触れようとする客を冷たくあしらう姿がまた人気を呼んだ。

「梅花」

「なんだい」

「太客だよ。あんたを指名だ」

 杖をつきながら歩く老婆に声をかけられ、梅花は首を傾げる。

 客ならば目の前に山のようにいる。その中でも別室に通されるほどの大金を詰んだ客がいるのだろう。

「私は色を売らないよ」

 梅花は答えた。

 色を売る――、つまりは体を売って客の相手をするということだ。そのような真似をする妓女は山のようにいる。その中でも梅花は潔癖症のように色を売ることだけは拒んできた。

「かまやしないよ」

 老婆は答えた。

 妓楼を取り仕切る老婆はにたりと笑う。

「早くお行き。あんまり待たせるものじゃない」

「珍しいことを言うものだね」

「それほどの太客ということだ。さっさと行きな」

 老婆は杖の先で梅花を突く。

 梅花は老婆の言葉に頷き、太客が待っているだろう客室に足を運んだ。


* * *


(ヤン) 可馨(クェ゛アシン)

 名を呼ばれた。

 梅花と名乗り、三年が経った。それ以前の名は妓楼に売られた際に捨てた。

 捨てた名を知っているのは身内しかいない。

 客室で梅花――、楊 可馨を待っていたのは実父だった。

「……父上」

 可馨は用意されていた椅子に座り、目の前で足を組んでいる実父と対面する。金をせびりにきたわけではないだろう。大金を出してこの場にいるのだ。