学校が終わり、家に帰っても誰もいない。
これまでは「おかえり」とお母さんが出迎えてくれた。その名残なのか……誰もいない家に入ると
「ただいまー」
と行ってから、靴を脱ぐ。
(はぁ。……お母さんのところに行けば良かったのかな……)
ベッドにごろんと横になり、天井を見つめながら答えの出ない悩みをずっと考え続ける。雨の日も、晴れの日も……ずっと同じことばかり考えていた。
「あの野郎、男を作ってやがったんだよ」
ある日、お父さんが僕に言った言葉が耳から離れない。
(……男)
僕にとって何だかとても怖い響きを持つ言葉だった。
いつ頃だったか、家に電話が掛かってくるようになった。夕方5時過ぎ。家の電話が鳴る。
「はい、斎藤です」
「……」
「もしもし?」
ッツー……ッツー……ッツー……
(……何だよ)
名乗らずに切れてしまった。
また別の日にも同じことが起こった。夕方5時を回る頃に、家の電話が鳴った。
「はい、斎藤です」
「……」
「……もしもし?」
ッツー……ッツー……ッツー……
(……またか)
初めての時、僕は「間違い電話か」と思い、気には留めなかった。しかし、夕方5時を過ぎると掛ってくる電話。僕が名乗っても無言で切れてしまう。「これは間違い電話じゃないな」と思うようになっていた。
そしてまた、夕方5時を回る頃に同じように電話が鳴る。僕は「ちょっと怖いな」と思いつつ電話に出る。
「……はい、斎藤です」
「……」
「……もしもし?」
いつもと同じように全く何も言わない。「このまま切れるのか」と思っていた時だった。
「……亮介?」
(……!)
それはお母さんの声だった。
懐かしいお母さんの声。毎日この家で当たり前のように聞いていた声。優しく温かい声。
一気に僕の中に、昔のことが思い出された。
「亮介……元気?」
「……」
今度は僕が何も言えなくなってしまった。
「まぁ……元気だよ」
「亮介……こっちに来ない?」
「……」
「また、前みたいに……一緒に暮らそう?」
頭が真っ白になってしまった。
僕は離婚した原因は、お父さんにあって「早くこの家を出ていてやる」「お前が悪いんだ」とずっと思ってきた。しかし、お父さんの口から「男を作って出て行きやがった」と聞いた……。しかも、もしお母さんの所に行った場合「男」がいる。
色々な想いがぐちゃぐちゃに混ざり合い、僕は受話器を耳に当てながらイライラしていた。
「亮介……本当は来たいんでしょう?」
「お母さん、分かるよ? 亮介のこと」
(……分かる? 僕のことが?)
「……何で……分かるんだよ」
震えながら吐き出すことができた、精一杯の言葉だった。
「当たり前でしょ? 元々お母さんのお腹の中にいたんだから……」
「『同じ』だったんだから……分かるよ。それくらい」
僕を見透かしているような口ぶり。僕のイライラは限界を越えてしまった。
「……ふざけんじゃねぇよ!」
「2度と電話してくんじゃねぇ!!」
「えっ……亮介……」
「この裏切りものが!!」
いつもお母さんが切る電話。
この日は僕から切った。
これまでは「おかえり」とお母さんが出迎えてくれた。その名残なのか……誰もいない家に入ると
「ただいまー」
と行ってから、靴を脱ぐ。
(はぁ。……お母さんのところに行けば良かったのかな……)
ベッドにごろんと横になり、天井を見つめながら答えの出ない悩みをずっと考え続ける。雨の日も、晴れの日も……ずっと同じことばかり考えていた。
「あの野郎、男を作ってやがったんだよ」
ある日、お父さんが僕に言った言葉が耳から離れない。
(……男)
僕にとって何だかとても怖い響きを持つ言葉だった。
いつ頃だったか、家に電話が掛かってくるようになった。夕方5時過ぎ。家の電話が鳴る。
「はい、斎藤です」
「……」
「もしもし?」
ッツー……ッツー……ッツー……
(……何だよ)
名乗らずに切れてしまった。
また別の日にも同じことが起こった。夕方5時を回る頃に、家の電話が鳴った。
「はい、斎藤です」
「……」
「……もしもし?」
ッツー……ッツー……ッツー……
(……またか)
初めての時、僕は「間違い電話か」と思い、気には留めなかった。しかし、夕方5時を過ぎると掛ってくる電話。僕が名乗っても無言で切れてしまう。「これは間違い電話じゃないな」と思うようになっていた。
そしてまた、夕方5時を回る頃に同じように電話が鳴る。僕は「ちょっと怖いな」と思いつつ電話に出る。
「……はい、斎藤です」
「……」
「……もしもし?」
いつもと同じように全く何も言わない。「このまま切れるのか」と思っていた時だった。
「……亮介?」
(……!)
それはお母さんの声だった。
懐かしいお母さんの声。毎日この家で当たり前のように聞いていた声。優しく温かい声。
一気に僕の中に、昔のことが思い出された。
「亮介……元気?」
「……」
今度は僕が何も言えなくなってしまった。
「まぁ……元気だよ」
「亮介……こっちに来ない?」
「……」
「また、前みたいに……一緒に暮らそう?」
頭が真っ白になってしまった。
僕は離婚した原因は、お父さんにあって「早くこの家を出ていてやる」「お前が悪いんだ」とずっと思ってきた。しかし、お父さんの口から「男を作って出て行きやがった」と聞いた……。しかも、もしお母さんの所に行った場合「男」がいる。
色々な想いがぐちゃぐちゃに混ざり合い、僕は受話器を耳に当てながらイライラしていた。
「亮介……本当は来たいんでしょう?」
「お母さん、分かるよ? 亮介のこと」
(……分かる? 僕のことが?)
「……何で……分かるんだよ」
震えながら吐き出すことができた、精一杯の言葉だった。
「当たり前でしょ? 元々お母さんのお腹の中にいたんだから……」
「『同じ』だったんだから……分かるよ。それくらい」
僕を見透かしているような口ぶり。僕のイライラは限界を越えてしまった。
「……ふざけんじゃねぇよ!」
「2度と電話してくんじゃねぇ!!」
「えっ……亮介……」
「この裏切りものが!!」
いつもお母さんが切る電話。
この日は僕から切った。



