この日から、僕と黒猫の生活が始まった。
タオルで包むと、黒猫は観念したのか……大人しくなり、僕は段ボールの中に入れて動物病院に連れていった。喫茶「凪」と同じく、大通りに面した「アニマルズ動物病院」。自分の人生で、まさか動物病院に連れていくことになるとは、夢にも思わなかった。
「特に怪我もしてないようですし……ノミもいない感じですねぇ」と先生は言っていて、「もしかすると、飼い猫だったのかも知れないですね」とのことだった。そして「まだ生後3ケ月くらいかな」とも言っていた。
念のため、ノミ防止の処置をしてもらい、受付でキャットフードを1袋購入する。僕と黒猫は誰もいない喫茶店に一緒に戻った。
「ほら」
100円ショップで購入してある紙皿に、キャットフードを出すと、夢中でむさぼるように食べる黒猫。相当お腹が空いていたらしい。猫を飼ったことがない僕にでも分かるくらいの勢い。
(さて……どうしたもんか)
ネットで調べてみると、とりあえずは……水とトイレがあれば何とかなると知り、トイレのための「猫の砂」を買いに行くことに決めた。
(でもな)
2階と1階を仕切るドアは付いていない。「ごめん」と心の中で呟いて、黒猫を押し入れに入れる。
「にゃあー」
「にゃあー」
絶対に「出して」と言っているんだろうなぁと思いながら、サインペンで紙に
『大変申し訳ありません』
『本日、臨時休業いたします』
『喫茶「凪」』
と書いて、ドアに貼った後ホームセンターへと走った。
――
――
――
初めての黒猫――いや、生き物との同居に、僕は緊張していた。そもそも何をすれば良いのかも分からない。ネットで調べてみると「猫は他の動物と違って、自分のペースを大切にするので……飼うのは楽です」と、各サイトには同じような文言が並んでいる。
(……放っておいて良いのか?)
とりあえず猫の砂を買った時に、簡単なおもちゃも買っていたので、黒猫の前でブンブンと振り回してみる。赤い羽根が先端に付いていて、チリンチリンと鈴が鳴る。
(……おっ?)
左右に揺れる赤い羽根。黒猫は顔と目で追いかける。そしてお尻を突き出して……一気に羽に飛びかかってきた。
「わあ!」
黒猫のスピードに驚いて、赤い羽根をバッ!と上に動かす。その動きも視野に入っているらしく、グッと足に力を込めて、高くジャンプした。
「おー! 獲ったじゃん!」
両手でがっちりと赤い羽根を包み込み、ガブリと口で噛むように挟む。「どうだ!」と言わんばかりの表情。
「スゴイなー。人間みたいだな。君は」
おもちゃを狙う時の目。獲物をゲットした時の誇らしげな顔。人間よりも人間らしく僕には映る。よしよし、と黒猫の頭を撫でると、ふさふさの毛が「生き物なんだな」と僕に感じさせてくれた。
「んー、名前。どうしようか」
「にゃあー……」
「何が良い?」
「にゃあー」
「うーん……」
「……」
「じゃ、『にゃーちゃん』にしようか。にゃーにゃー鳴くから」
「よし! 決まり!」
「にゃーちゃん!」
「にゃぁーー……!」
名前も決まり、無事に僕達の生活がスタートした。
喫茶「凪」は、残り2ケ月も持たないというのに――
タオルで包むと、黒猫は観念したのか……大人しくなり、僕は段ボールの中に入れて動物病院に連れていった。喫茶「凪」と同じく、大通りに面した「アニマルズ動物病院」。自分の人生で、まさか動物病院に連れていくことになるとは、夢にも思わなかった。
「特に怪我もしてないようですし……ノミもいない感じですねぇ」と先生は言っていて、「もしかすると、飼い猫だったのかも知れないですね」とのことだった。そして「まだ生後3ケ月くらいかな」とも言っていた。
念のため、ノミ防止の処置をしてもらい、受付でキャットフードを1袋購入する。僕と黒猫は誰もいない喫茶店に一緒に戻った。
「ほら」
100円ショップで購入してある紙皿に、キャットフードを出すと、夢中でむさぼるように食べる黒猫。相当お腹が空いていたらしい。猫を飼ったことがない僕にでも分かるくらいの勢い。
(さて……どうしたもんか)
ネットで調べてみると、とりあえずは……水とトイレがあれば何とかなると知り、トイレのための「猫の砂」を買いに行くことに決めた。
(でもな)
2階と1階を仕切るドアは付いていない。「ごめん」と心の中で呟いて、黒猫を押し入れに入れる。
「にゃあー」
「にゃあー」
絶対に「出して」と言っているんだろうなぁと思いながら、サインペンで紙に
『大変申し訳ありません』
『本日、臨時休業いたします』
『喫茶「凪」』
と書いて、ドアに貼った後ホームセンターへと走った。
――
――
――
初めての黒猫――いや、生き物との同居に、僕は緊張していた。そもそも何をすれば良いのかも分からない。ネットで調べてみると「猫は他の動物と違って、自分のペースを大切にするので……飼うのは楽です」と、各サイトには同じような文言が並んでいる。
(……放っておいて良いのか?)
とりあえず猫の砂を買った時に、簡単なおもちゃも買っていたので、黒猫の前でブンブンと振り回してみる。赤い羽根が先端に付いていて、チリンチリンと鈴が鳴る。
(……おっ?)
左右に揺れる赤い羽根。黒猫は顔と目で追いかける。そしてお尻を突き出して……一気に羽に飛びかかってきた。
「わあ!」
黒猫のスピードに驚いて、赤い羽根をバッ!と上に動かす。その動きも視野に入っているらしく、グッと足に力を込めて、高くジャンプした。
「おー! 獲ったじゃん!」
両手でがっちりと赤い羽根を包み込み、ガブリと口で噛むように挟む。「どうだ!」と言わんばかりの表情。
「スゴイなー。人間みたいだな。君は」
おもちゃを狙う時の目。獲物をゲットした時の誇らしげな顔。人間よりも人間らしく僕には映る。よしよし、と黒猫の頭を撫でると、ふさふさの毛が「生き物なんだな」と僕に感じさせてくれた。
「んー、名前。どうしようか」
「にゃあー……」
「何が良い?」
「にゃあー」
「うーん……」
「……」
「じゃ、『にゃーちゃん』にしようか。にゃーにゃー鳴くから」
「よし! 決まり!」
「にゃーちゃん!」
「にゃぁーー……!」
名前も決まり、無事に僕達の生活がスタートした。
喫茶「凪」は、残り2ケ月も持たないというのに――



