「……おいって。どこ行った?」
駆け足で2階まで上ると息が上がる。呼吸を落ち着かせながら、黒猫を探す。2階は6畳の部屋が2つ。縦に並んでいるから、1部屋ずつ探せば……きっと見つかるだろうと思っていた。

(そうか。声を出せば……鳴くか?)

「おーい」
「どこ?」
「返事してー」
狭い部屋の中で、驚かせないほどの大きさの声を出す。ふすまは閉めてあるから、探し出すのは容易なはず。

(……どこだ?)

カーテンの裏を見てもいない。テレビも隠れるだけの大きさではない。自分でふすまを開けて、裏から閉めるわけもない。……たった2つの部屋なのに、黒猫の姿が見当たらない。

(……お客さん来たら、どうすんだよ)

「おーい」
「どこー?」

「にゃあーん」
こもったような声が聞こえた。口にハンカチでもあてながらしゃべっているような声。僕はまさかと思いながら、もう一度黒猫を呼んだ。

「どこー?」
「にゃあー」

(……まさか)

灯台下暗し。黒猫が潜んでいたのは、寝起きのままにしてある掛け布団の中からだった。注意して見てみると……1ケ所だけ不自然に盛り上がっている。

(ここ……?)
(危ないな……踏むとこだったじゃんか……)

そっと掛け布団を端からめくると……「見つかっちゃった」とでも言わんばかりの顔をした黒猫が、目を丸くして僕を見つめていた。