それから数日。お客さん達の前で僕は落ち込むそぶりは一切見せないように振舞った。
「……大丈夫ですか?」
休業が明けて最初に来てくれたお客さん達は、みんな僕を気遣ってか……色々と声をかけてくれたけれど、僕は「はい。全然大丈夫ですよ」「元気です!」と務めて明るく振舞った。
「ガン 遺族」と適当に検索して調べる日々も増え、ぼんやりとサイトを眺めることも多い。
『母と同じ病気になってしまって……母が待っているのかなと……』
『ずっとずっと毎日、泣いてばかりの日々を送っています』
あまり僕にとって前向きな記事は少なかった。
(……不思議なことってあるもんだ)
お母さんが乳がんになって亡くなった1年後、娘さんも同じく乳がんになって闘病していると書いてある記事を見ると、胸が痛くなる。そして僕はそっとサイトを閉じる。
(……はぁ)
幸いなことに、心にぽっかりと穴が空いた毎日を送ってはいるけれど、熱が出たとか、どこかが痛いというようなことは何一つない。仕事はキチンと毎日できてはいる。しかし、どうしても夜になると寂しく、空しい気持ちが僕を襲う。
(でもまぁ)
(……この子のお陰か)
2階の猫用ベッドでうとうとと、気持ち良さそうに寝ているにゃーちゃんを見ていると、僕が生活をできているのは、この子がいるからなのかなと、いつも思う。
「……何?」
急にパッと目を開けて、にゃーちゃんが話かけてくる。
「あ、あぁ……聞いてたんだ」
「分かるよ。パパの考えていることは」
「……びっくりしたなぁ」
ぐぐぐぐーー……っと伸びをして、にゃーちゃんはぴょんとベッドから飛び出した。そしていつもの定位置、空が見える窓際へと移動する。
「寂しいんでしょ?」
「……そりゃ、まぁ」
「変なの」
「……変?」
「そうよ」
「……何で? 変かな」
「だってパパはさ、ずっとずっと……『お前なんか嫌いだー』とか『こんな家出ていってやるー』とか……思ってたんでしょ?」
僕ははっとして言葉が出なかった。そうだ。小さい頃……お父さんが離婚した時。自己破産した時。僕は「何でこんな家に生まれたんだ」とか……「お前達が悪いんだ」とか……思っていた。急に感情が思い出される。
「……にゃーちゃんは……すごいな」
「ふふん。猫、舐めないでよね?」
にこりと笑ったような気がする。どこか自慢げに見える。
「でもさ、忘れてるでしょ?」
「忘れてる? ……何を?」
「パパのお父さんが死んだ日だよ」
「えっ……?」
「あああっ……!!」
僕は思わず大声を出してしまった。
「分かった?」
「……そんな……たまたまだろ……?」
そう。お父さんが死んだ日。7月7日だった。
それは……僕が喫茶「凪」を始めた日だ。
「人生って……不思議なことの連続だよね」
そう言うと……にゃーちゃんは空を見上げて、何かを感じている。
「すっごいな。同じ日かよ……」
「……」
「何してんの? ねえ」
僕は空をじっと見上げるにゃーちゃんに向かって話かけるけれど、にゃーちゃんはぴくりとも動かない。
「あぁ……初めまして」
優しい声で、空に向かってにゃーちゃんは微笑むように言った。
「ん? 何?」
「パパのお父さん。パパのお父さんと……お話、してるの」
雲一つない夜の空。
しばらくの間、にゃーちゃんは目を瞑りながら、じっと動かなくなった――
「……大丈夫ですか?」
休業が明けて最初に来てくれたお客さん達は、みんな僕を気遣ってか……色々と声をかけてくれたけれど、僕は「はい。全然大丈夫ですよ」「元気です!」と務めて明るく振舞った。
「ガン 遺族」と適当に検索して調べる日々も増え、ぼんやりとサイトを眺めることも多い。
『母と同じ病気になってしまって……母が待っているのかなと……』
『ずっとずっと毎日、泣いてばかりの日々を送っています』
あまり僕にとって前向きな記事は少なかった。
(……不思議なことってあるもんだ)
お母さんが乳がんになって亡くなった1年後、娘さんも同じく乳がんになって闘病していると書いてある記事を見ると、胸が痛くなる。そして僕はそっとサイトを閉じる。
(……はぁ)
幸いなことに、心にぽっかりと穴が空いた毎日を送ってはいるけれど、熱が出たとか、どこかが痛いというようなことは何一つない。仕事はキチンと毎日できてはいる。しかし、どうしても夜になると寂しく、空しい気持ちが僕を襲う。
(でもまぁ)
(……この子のお陰か)
2階の猫用ベッドでうとうとと、気持ち良さそうに寝ているにゃーちゃんを見ていると、僕が生活をできているのは、この子がいるからなのかなと、いつも思う。
「……何?」
急にパッと目を開けて、にゃーちゃんが話かけてくる。
「あ、あぁ……聞いてたんだ」
「分かるよ。パパの考えていることは」
「……びっくりしたなぁ」
ぐぐぐぐーー……っと伸びをして、にゃーちゃんはぴょんとベッドから飛び出した。そしていつもの定位置、空が見える窓際へと移動する。
「寂しいんでしょ?」
「……そりゃ、まぁ」
「変なの」
「……変?」
「そうよ」
「……何で? 変かな」
「だってパパはさ、ずっとずっと……『お前なんか嫌いだー』とか『こんな家出ていってやるー』とか……思ってたんでしょ?」
僕ははっとして言葉が出なかった。そうだ。小さい頃……お父さんが離婚した時。自己破産した時。僕は「何でこんな家に生まれたんだ」とか……「お前達が悪いんだ」とか……思っていた。急に感情が思い出される。
「……にゃーちゃんは……すごいな」
「ふふん。猫、舐めないでよね?」
にこりと笑ったような気がする。どこか自慢げに見える。
「でもさ、忘れてるでしょ?」
「忘れてる? ……何を?」
「パパのお父さんが死んだ日だよ」
「えっ……?」
「あああっ……!!」
僕は思わず大声を出してしまった。
「分かった?」
「……そんな……たまたまだろ……?」
そう。お父さんが死んだ日。7月7日だった。
それは……僕が喫茶「凪」を始めた日だ。
「人生って……不思議なことの連続だよね」
そう言うと……にゃーちゃんは空を見上げて、何かを感じている。
「すっごいな。同じ日かよ……」
「……」
「何してんの? ねえ」
僕は空をじっと見上げるにゃーちゃんに向かって話かけるけれど、にゃーちゃんはぴくりとも動かない。
「あぁ……初めまして」
優しい声で、空に向かってにゃーちゃんは微笑むように言った。
「ん? 何?」
「パパのお父さん。パパのお父さんと……お話、してるの」
雲一つない夜の空。
しばらくの間、にゃーちゃんは目を瞑りながら、じっと動かなくなった――



