親不孝者35歳、黒猫と暮らす

「にゃーちゃん?」
「にゃぁー!」
名前を呼ぶと、絶対に返事をしてくれる。

僕が仕事のために1階へ下りる時、にゃーちゃんは必ず僕を引き留める。

「何よー?」
「にゃあー……」
「仕事だってば」
「……にゃあああ……」

「もっと居て!」とか「行っちゃダメ!」とか言っているのだろうか。ここまで僕を引き留めてくれるのは……嬉しい。

「にゃーちゃんのご飯代! 頑張って稼いでくるから!」

もちろん自分も生きていくために働かなくてはいけない。でも……自分が働いて、お金をもらう目的が、「自分以外の人(猫)」のためになっていることが……嬉しかったし、やりがいがあった。「もっと頑張ろう!」と、疲れていても、僕に力をくれる。

「なぁ? 何を見てるの?」
「……」
「お外にさ、友達でも来てるの?」
「……にゃぁ!」

猫は不思議だ。窓の外をじっと眺める猫。にゃーちゃんと暮らし始めた時、動画でもそのような猫動画はたくさんあった。パトロールをしているらしい。

……でも、にゃーちゃんの場合は、パトロールという雰囲気ではない。空をじーっと見つめている。何だろう、何か……空からのメッセージでも受け取っているかのよう……。

「ねえ。何かいるの? 空に」
「……」
相変わらず、僕の声には反応せず、じっと空を見続ける。

「ねえってば」
「……」

そして時おり、顔をぴくりと動かして……耳をパタパタッと動かす。僕はその様子をじっと見続けていた。

黒猫は、月が綺麗な夜にとっても似合うなと思いながら。