親不孝者35歳、黒猫と暮らす

「なぁ。にゃーちゃんてさ、人間の言葉……分かるの?」
「……」
「ねえ」
僕はにゃーちゃんのほっぺをぐりぐりとマッサージしてあげる。目を細めて、うっとりした顔をしているから……たぶん気持ちが良いんだと思う。

「痛っ!」
……あまり長時間続けると、「もういい!」とばかりに、指をがぶりと噛んでくる。反射的に「痛い!」と声を出してしまうけれど、まだまだ1歳に満たない子猫。噛む力はそこまで強くはない。

「絶対、言葉分かってる気がするんだよなぁ」
じっと僕の顔を見つめるにゃーちゃんを見ていると、「何か、人間みたいだよなぁ」といつも思う。

「じゃ、お風呂入ってくるから」
1階の奥。お店の奥の方に風呂場はある。僕はにゃーちゃんが出ないようにいつも通り、突っ張り棒をふすまの外側から設置する。

「にゃー!」
「にゃああああ……!」
「あおぉーー……ん……」

湯船に浸かっていると、痛々しく鳴くにゃーちゃんの声が、1階の奥まで響いてくる。

「もう……風呂くらいゆっくり入らせてよ……」

もっと入りたいのにという思いもあるけれど、自分を必要としてくれているように感じることの方が大きく、僕は「僕という存在」を認めてもらえているような気がして……僕を必要としてくれている気がして……嬉しい。

「あなたという存在が、必要」とにゃーちゃんに言ってもらえているような気がするのだ。

少しにやつきながら、手早く風呂から出る。2階の階段を上っていると、足音に気付くらしく、またにゃーちゃんは鳴く。

「あおーー……ん……」
「にゃー…ぁぁぁ……ん」

ガラッとふすまを開けると、「にゃあああああーーー……!」と僕をしかりつける。まるで「どこに行っていたの!」と子供を叱る、親のように。

「風呂だよ、風呂」
「ごめんごめん」
にゃーちゃんの顔に、僕は笑顔で顔を擦り付ける。顔はそっぽ向いて……少し嫌がっているように見えるくせに、なんやかんやで動かないにゃーちゃんが、とっても愛おしい。

お客さんも来てくれるようになって
ご飯も食べれて
生活もできて
にゃーちゃんと一緒に暮らせて

僕は、これだけで幸せだ。

これまでの僕の人生で、考えられないことばかり。