「えっ……?」
女性の話を聞いて、僕の心は踊った。踊るどころか……世界が反転した!

「はい。もし良かったら……なんですけれど」
「大丈夫です……! 今度、お店に来て頂いて、もう少し詳しく話を聞かせて頂ければ」
「良かった、良いですか?」
「もちろんです、大丈夫です」
「もし良ければ、この後お店に伺っても……」

1時間後、喫茶店にまた来てくれることになった。

女性は、松野さんと言って、同じ大通りで花屋を経営しているらしい。月に何回かフラワー教室をやりたいそうだけれど、あの大通りではそれができる場所がない……ということで、「場所を貸して欲しい」という相談だった。

ちょうど人数も5~6人を予定しているそうで、僕の喫茶店が理想的な雰囲気なんだそうだ。

何より僕をたかぶらせたのは……場所代として月に8万円払ってくれるということ。どうせ閑古鳥の鳴いている喫茶店。場所を貸すことくらい何てことはないし、しかもコーヒーやケーキなどもそこで注文してくれる可能性が高い。

これで家賃は賄うことができた……利益はまったくないけれど……喫茶店は存続できることが決まった。

「ねえ! にゃーちゃん! やった!」
僕は喫茶店の1階で松野さんとの話を終えると、にゃーちゃんに状況を説明した。
「良かったー……」
「何の話?」と言わんばかりの顔をしているにゃーちゃんの前で、僕は一人泣いた。本当に不安で怖かった。「これで生きていける」と思うと……自然と涙が溢れてきたのだ。

「にゃあ?」
「いやぁ……本当に良かった……」
「にゃっ!」
窓の手すりからピョン!と下りてきたにゃーちゃんは、僕に近づき……人差し指をぺろぺろと舐めてくれる。それがまた嬉しくて……声を上げて僕は泣いた。

「……良かったなぁ…」
「にゃーちゃんにおもちゃ買ってあげれるよ……これでさぁ……」
ひょいとにゃーちゃんを抱き上げて、胸の前で抱きしめる。アゴをにゃーちゃんの頭に擦り付けると、「にゃー」と鳴いてうっとりしている。

「はぁー……」
これまでの悩みが、一気に解消された気がした。