「えっと……? 猫は、高い所が好き……?」

黒猫のにゃーちゃんと暮らし始めて、僕は色々とネットを調べた。細かいことを調べる時は検索をして、イメージを掴みたい時は動画を観た。「こんな狭い家で大丈夫かな」と最初は思っていたが、どうやら猫にはあまり関係ないらしく、広さよりも高さが必要らしかった。

(だからキャットタワーって存在してるのか……)

本棚の上にちょこんと座り、窓の外をじっと見つめるにゃーちゃん。昼間はあまり鳴くことはない。

「ね。キャットタワー、欲しい?」
「……」
「ねえってば」
「……にゃっ」
「……まぁ、欲しいよなぁ」

相変わらず、喫茶「凪」の経営は厳しい。

自分のこれからの人生も全く見えない。ご飯も満足に食べることができない。ずっと白米にふりかけだけ。「絶対栄養取れてないよな」と思うけれど、実際にお金がないから仕方ない。

でも黒猫に必要なものは、買ってあげようと思うのだ。これは僕の中でも不思議な感覚だった。

何ごともなかったけれど、動物病院だってお金はかかった。そもそもにゃーちゃんの日々のご飯。僕よりもお金がかかっている……。本当に笑える。

「まぁ……プレゼントしてあげようかね……」
「……遊ぶ場所、欲しいよね?」

僕はレジからお札を適当に財布に入れて、ホームセンターに向かった。キャットタワーを買うために。

今まではタオルやトイレットペーパーなど、お店をやっていくのに必要なコーナーにしか行ったことがなかった。でも最近は入口を入って左側の「ペットコーナー」に向かって進む自分が何だか新鮮に感じている。

(……え?)
(1万……8千円?)

キャットタワーの値段……僕の想像を遥かに超えていた。思わず頭の中で、お店に残っている残金の計算を始める。

(おい……買って大丈夫なのか?)

ペットコーナーのキャットタワーの前で、眉間にしわを寄せる男性。店員から見たら、さぞ不審に映ったかも知れない。でも僕は真剣だった。お金が尽きれば……お店を畳まなくてはならないから。

……そして、にゃーちゃんの世話をすることもできなくなるから。

(んー……)
(……うーん……)

無理な話ではあるけれど、「最悪、自分が毎日何も食べなければ良い」と結論付けて購入を決めた。……3種類あるうちの一番安い価格のキャットタワー。1万円前後だったと思う。

お会計を済ませ、背筋を丸めて歩く僕に、1人の女性が声をかけてきたのはその時だった。

「あの」
「すみません」

「……えっ? あ、はい」
こんな場所で声をかけられると思っておらず、急いで背筋を伸ばした。

「もしかして、あの大通りにある喫茶店の方……ですか?」
「間違っていたら……すみません」

30歳前後に見える女性だった。

「あ、はい。あそこの喫茶店をやっている者ですが……」
「あ、やっぱり! 実はですね、ちょっとお話がありまして……」

レジの付近だと何なので、僕達は出口を出たところで少し立ち話を始めた。