ある夕方、帰宅した夏美が玄関を開けると、メランが窓際で街の灯りを見つめていた。
雨上がりの水たまりに反射する光に目を細めている。

「どうしてそこにいるの？」

「ただ、考え事をしていただけです。あなたの心の声を感じ取ろうとして」

メランはふわりと飛び降り、足元で体をすり寄せた。夏美は黒い毛並みの柔らかさに自然と微笑む。

その夜、布団の上で夏美はメランに尋ねた。

「ねえメラン、もしも願いを間違えたらどうなるの？」

「間違いというものはありません。大切なのは心から望むことを選ぶことです。それが正しいかどうかは、願いを叶える瞬間に分かります」

メランの言葉は静かに、しかし確かに夏美の心に届いた。
頭の中で悩んでいたことが、少しずつ整理されていくような感覚があった。

夏美は毎晩メランと向き合いながら、自分の心と向き合った。

学校の友達の笑顔を守りたい。

家族が健康で幸せでいてほしい。

自分自身も、大切なものを見失わずに生きたい。

メランは決して押し付けず、ただ静かに耳を傾けるだけだった。
しかしその存在感は、願いを考える時間を特別なものにしてくれる。

ある夜、窓の外に流れ星がひとつ光った。
メランは目を輝かせて夏美を見つめる。

「星を見ながら願いを決めるのも、良いかもしれませんね」

「うん。でも、本当に叶えられるのかな？」

「大丈夫。あなたの願いなら、必ず」

その言葉に、夏美は小さく頷いた。
メランがそばにいるだけで心が強く、温かくなるのを感じた。