黒猫と少女のやさしい奇跡

雨上がりの朝、窓から差し込む光に照らされ、夏美は布団の中で目を覚ました。
隣ではメランが丸くなって寝息を立てている。

あの夜、メランが話したことが夢ではないと確信してから、日常の景色が少しだけ不思議に見えるようになっていた。

「本当に、話せるんだよね」

小さくつぶやくとメランは目を開け、黄色い瞳でじっと夏美を見返した。

「ええ、夢ではありません。あなたが私を助けてくれたから、今ここにいるのです」

朝の柔らかな光に照らされ、黒い毛並みは艶やかに輝く。
夏美は頬を緩めながら、布団の中でメランを撫でた。

「でも、願いを一つだけってすごく難しいことだよね」

「そうですね、だからこそ慎重に考えてください」

学校へ行く道すがら、夏美はメランのことを考えていた。

(何をお願いすればいいのだろう、自分のことばかりじゃ少しわがままかもしれない。友達のこと?家族のこと?それとも……)

メランはリュックの中でぴょこんと顔を出し、歩く夏美の肩に小さく飛び乗った。

「夏美、今日は何を考えていますか?」

「えっと……どうしよう……」

夏美は思わずため息をつく。

教室では友人たちが楽しげに話している。
夏美は聞きながらも、頭の中では願いのことがぐるぐると回っていた。
放課後の図書室でも、授業中でも、食事中でも、メランの存在が常に心の片隅にある。

メランはその静かな観察者であり、時にアドバイスをくれる存在だった。

「夏美、願いを考える時は、心の声に耳を傾けるのです。自分が本当に大切に思うことを」

その言葉には不思議な重みがあった。
人に言われるのとは違う、命そのものから伝わる説得力のようなものがある。