静かな夜の中、ふとメランが動いた。

体を伸ばすのではなく、しっかりと夏美の方を向いたその目はいつもより鋭く、知性を帯びているように見えた。

「夏美、あなたは命の恩人です」

驚きで息が止まる、寝ぼけているのかと思った。
目をこすり、もう一度確認する。
間違いなくあのメランが、はっきりとした声で話している。

「え……？メランが……話した……？」

メランは小さく頭をかしげ、再び口を開いた。

「はい、あなたに助けられて本当によかった。感謝の気持ちとして一つだけ、願いを叶えてあげましょう」

夏美は後ずさりし、布団の上で固まった。
猫が話すなんて、漫画や昔話の中だけのことだと思っていた。

それが今、目の前で現実として起きている。

「願い……？え、どういう……」

メランはしなやかに体を伸ばし、じっと夏美を見つめる。
目の奥には優しさと、どこか神秘的な光が宿っていた。

「あなたが私を助けてくれた。そのお礼として、どんな小さな願いでも叶えましょう」

その声には、不思議な力が宿っているように感じられた。ウ
夏美の心臓は早鐘のように打ち、頭の中は混乱した。

猫が話せること自体が信じられない上に願いを叶えるだなんて、夢のような出来事だった。
しかし目の前のメランは確かに存在し、声を発している。体を震わせながら、夏美はやっと口を開いた。

「わ、私に願いを叶えてくれるの？」

メランは静かに頷く。毛並みが月明かりに光り、黒い身体が神秘的な光を帯びたかのように見える。

「はい、どんな願いでも構いません。ただし、一つだけです」

その言葉に、夏美の胸の奥で温かい何かがゆっくりと広がった。
メランの存在がただの猫ではなく、特別な存在であることを教えてくれた。

「わかった。考えてみるね、メラン」

その夜、夏美は布団に入りながら、メランの小さな身体を抱きしめた。
話すことができる猫が自分のそばにいる。
ありえない出来事に戸惑いながらも、不思議な安心感が心を満たしていた。

夜が更けるにつれて窓の外には星が瞬き、部屋の中には静かな呼吸と、温かい絆だけが残った。