雨が止んで数日が経った。夏美の部屋には朝の柔らかな光が差し込み、窓の外には青空が広がっていた。
あの激しい雨の日のことは、まるで遠い夢のように思える。
しかし、目の前にいる黒猫、メランの小さな体が日々確実に力を取り戻していく様子は現実のものだった。

初日は、メランの体温を保つことだけが課題だった。濡れた体をタオルで拭き、温かい布の中に包み込む。
食欲もほとんどなく、口元に差し出したキャットフードにも目を細めるだけだった。
夏美は小さな声で話しかけ、ゆっくりと食べさせる。

「大丈夫だよ、メラン。怖くないからね」

手を差し出すと、最初は警戒して後ずさりしていたが、やがてそっと指先を舐めるようになった。
ほんのわずかな温もりに、夏美は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

二日目にはメランの瞳に少し光が戻った。
小さな身体を伸ばし、短く鳴く。
夏美は朝食を用意し、キャットフードを器に入れると、メランはしっかりと食べ始めた。

「おお、食べてくれた！」

思わず声が弾む。メランの元気な姿を見ることは、夏美にとって何よりも嬉しいことだった。

三日目、メランは部屋の中を歩き回るようになった。
ぴょんと飛び跳ねたり、毛づくろいをしたりする。
まだ少しふらつくこともあるが、確実に回復しているのが分かり、夏美は笑顔で見守る。

「もう大丈夫だね、メラン」

その夜、布団に入った夏美は窓の外の月明かりを見上げていた。
メランは布団の上に丸くなり、柔らかく鼻を鳴らして寝息を立てる。
夜が深まるにつれて呼吸のリズムが安定してくる。
安心した瞬間、夏美も眠りに落ちそうになったその時だった。