王宮から出て来た長はビボを見るなり手を上げ、一言言った。

「帰ったか、ビボよ」

「…だだいま戻りました」

「アンジュの飼い主の元で少しは改心したかの?」

「はい」

「…まぁ、良い。早くアンジュにその首輪を届けてやれ」

「はい、なのでアンジュさんの住所を教えて…」

「嫌じゃ、アンジュのことをお主が覚えておるなら自ずとその居場所が分かるじゃろう」

そう言い放った長はそそくさと王宮の中へと帰って行った。



ビボは王宮から出ると、早速アンジュを捜し始めた。

「すみません」

「はい…どうしま…ぎゃああっ!」

「ちょっと!何しに来たのよ!」

「私達は首輪もしていないわよ!」

「…違っ」

(別に首輪を奪いたいんじゃない)

そうビボは思っていても大多数は違う。

今までのビボの行いは怯えさせ、支配し、痛めつけるだけだった。

(嫌われていて当然、だよな)

「早く行きましょ!」

「そ、そうね…」

(これが世間から見た俺様の評価ということか)





ビボは切り替えて街ゆく猫に声をかけ続けた。

だが、みんなの反応は一律して逃げるのみだった。

(これはもう声かけは諦めた方が良いか)

ビボが諦めたかけた時、星々が煌めく夜空の下に咲く花畑を眺める猫が居た。

ビボはその歌声に導かれて花畑へと足を踏み入れた。

「…あら、やっと来たわね」

「あんた、誰?」

ビボが白色の猫に問うと灰色の猫は応えた。

「思い出した…とかではなさそうね。私はアンジュ貴方に飼い主から貰った首輪を奪われ壊された猫よ」

「…!」

そこには白色の毛に露草色の瞳をしたペルシャ猫が居た。

「お前が…アンジュ…?」

ビボは思い出した。

あの猫アンジュのことを…

「えぇ」

「あの時は首輪を奪って、壊してしまってすみませんでした!これで、赦されるとは思ってないけど、これだけは受け取ってください」

「そうね、確かに怖かったし、痛かったわ…でも、貴方の心の叫びも聞こえたの。だから貴方のしたことは赦さないけれど、そこまでは恨めないわ。寂しかったのでしょう?愛されたかっただけなのでしょう?」

「…確かに俺様は誰からも愛されてなかったし、愛されることもなかった猫生だった。でも、なんで分かるんだよ?」

「泣いてたのよ、瞳が、顔が」

「泣いてた…?」

「えぇ」

「俺様が?」

「えぇ」

(信じられない、この俺様が泣く?そんな子供じゃない俺様が?)

「信じられないって感じかしら?」

「どうして…分かるんだよ?」

ビボの感情を言い当てて来るアンジュをビボは少しずつ恐くなって来る。

「…うーん、なんとなくかしら」

「…いや、なんとなくって何だよ!」

「良いじゃない、なんとなくそう思ったのだから」

「アンジュおばーちゃーん!」

「…!あんたはまたアンジュおばあちゃんをいじめに来たの!?」

シャーッ!とビボと同年代くらいの三毛の雌猫に威嚇をされる。

「違うわ、荷物を運んで貰ってたのよ」

「荷物を?」

「えぇ」

問に答えながらアンジュは三毛猫に首輪を自慢する。

「見てちょうだい、この首輪はね私の飼い主の子がねくれたのをビボが持って来てくれたのよ」

「…有り得ない」

「でしょう?でも、事実なの」

「…じゃあ、それが本当ならウチのもお願い出来る?」

「あぁ」

「じゃあ、明日ここに荷物取りに来て」

「あぁ、分かった」

「じゃあね、アンジュおばあちゃん」

「えぇ、またね。ミケちゃん」

三毛猫が手を振り立ち去る。

「それじゃ、私も帰りましょうかね。また、頼むわね」

「あぁ」