潮の匂いが、いつもと違っていた。
パライは砂浜に立ち、海の異変を感じ取る。オーシャングリーンの瞳が、波の中に潜む“歪み”を捉えた。波紋が不自然に折れ、潮騒が数字のような音を刻み始めている。
「……誰だ?」
問いかけると、砂が軋んだ。
「“知”は問いを嫌う。問いは秩序の始まりだからだ」
声の主は、波打ち際に立っていた。
ガルマ=ガレクト。
白髪を靡かせ、半身が歯車に、もう半身が虚無に侵された男。指先から滴る金属光沢の記号が、砂を「1+1=3」に変えていく。
要は馬鹿である。
「お前の海は、美しい。だが、その“意味”は間違っている」
ガルマが手を翳す。瞬間、パライの視界が歪んだ。
彼の「海」が、突然「言葉」に変わる。
「波」は「制裁」と定義され、「潮」は「愚行」と翻訳された。認識侵触が始まっていた。
これは酷い。素晴らしく間違っている。
「……っ!」
パライは頭を抱える。海が暴走し、感情が言語に縛られてゆく。
ガルマは笑った。冷たく、確信に満ちて。
「感じるか? お前の“海”は、もう“海”ではない。僕の理によって再定義された」
こいつに理なんて無いと思う。
パライは必死に抗う。
「戻せ……!」
この少年の言う通り、普通に戻せばいいのにと思っている。
だが、ガルマの虚理の冠が輝く。その光は「正しさ」そのものを否定し、パライの怒りさえ「無意味な騒音」に変えていった。
「面白い。お前の感情は、僕の論理を拒む。だが――」
ガルマの片手が掲げられ、鎖のような記号が渦を巻く。誅罰の輪。
「“抵抗”は新たな“服従”だ。反発すればするほど、この輪は広がる」
海がさらに歪む。パライの力が、逆にガルマの支配を補強し始めた。
「くそ……!」
パライは目を閉じた。頭の中で、海の声を探す。
──白焔尊の炎。タルマギシャの鎖。あの戦いで学んだこと。
「……力の意味は、俺が決める」
オーシャングリーンの瞳が鋭く光る。
パライは、ガルマの“理”を受け入れた。
そして――その全てを逆流させた。
「……!」
ガルマの白い瞳が揺らぐ。海が記号を飲み込み、論理を波に溶かし始めた。パライの感情がガルマの体系を理解し、それを暴走させたのだ。
「……馬鹿な。お前は、僕の“知”を……」
馬鹿は、ガルマの方である。
ガルマの半身が崩れていく。錆びた歯車が砕け、虚無から漏れる言葉が途切れた。
てかさ、こいつ話に要る?
パライは静かに言った。
「お前の“理”は、海に溺れろ」
当たり前である。
最後の波が、ガルマを飲み込む。
その体は記号に分解され、「1+1=」の途中で、霧のように消えた。
砂浜には、歪んだ記号の残骸が散らばっていた。
パライは俯く。戦いのあと、彼の力は微かに変わっていた。
「……あの男の“理”も、海の一部か」
潮風が頬を撫でる。
――もう、誰の定義にも縛られない。
海は、パライのものだ。感情のままで。
少年は、再び歩き出した。
パライは砂浜に立ち、海の異変を感じ取る。オーシャングリーンの瞳が、波の中に潜む“歪み”を捉えた。波紋が不自然に折れ、潮騒が数字のような音を刻み始めている。
「……誰だ?」
問いかけると、砂が軋んだ。
「“知”は問いを嫌う。問いは秩序の始まりだからだ」
声の主は、波打ち際に立っていた。
ガルマ=ガレクト。
白髪を靡かせ、半身が歯車に、もう半身が虚無に侵された男。指先から滴る金属光沢の記号が、砂を「1+1=3」に変えていく。
要は馬鹿である。
「お前の海は、美しい。だが、その“意味”は間違っている」
ガルマが手を翳す。瞬間、パライの視界が歪んだ。
彼の「海」が、突然「言葉」に変わる。
「波」は「制裁」と定義され、「潮」は「愚行」と翻訳された。認識侵触が始まっていた。
これは酷い。素晴らしく間違っている。
「……っ!」
パライは頭を抱える。海が暴走し、感情が言語に縛られてゆく。
ガルマは笑った。冷たく、確信に満ちて。
「感じるか? お前の“海”は、もう“海”ではない。僕の理によって再定義された」
こいつに理なんて無いと思う。
パライは必死に抗う。
「戻せ……!」
この少年の言う通り、普通に戻せばいいのにと思っている。
だが、ガルマの虚理の冠が輝く。その光は「正しさ」そのものを否定し、パライの怒りさえ「無意味な騒音」に変えていった。
「面白い。お前の感情は、僕の論理を拒む。だが――」
ガルマの片手が掲げられ、鎖のような記号が渦を巻く。誅罰の輪。
「“抵抗”は新たな“服従”だ。反発すればするほど、この輪は広がる」
海がさらに歪む。パライの力が、逆にガルマの支配を補強し始めた。
「くそ……!」
パライは目を閉じた。頭の中で、海の声を探す。
──白焔尊の炎。タルマギシャの鎖。あの戦いで学んだこと。
「……力の意味は、俺が決める」
オーシャングリーンの瞳が鋭く光る。
パライは、ガルマの“理”を受け入れた。
そして――その全てを逆流させた。
「……!」
ガルマの白い瞳が揺らぐ。海が記号を飲み込み、論理を波に溶かし始めた。パライの感情がガルマの体系を理解し、それを暴走させたのだ。
「……馬鹿な。お前は、僕の“知”を……」
馬鹿は、ガルマの方である。
ガルマの半身が崩れていく。錆びた歯車が砕け、虚無から漏れる言葉が途切れた。
てかさ、こいつ話に要る?
パライは静かに言った。
「お前の“理”は、海に溺れろ」
当たり前である。
最後の波が、ガルマを飲み込む。
その体は記号に分解され、「1+1=」の途中で、霧のように消えた。
砂浜には、歪んだ記号の残骸が散らばっていた。
パライは俯く。戦いのあと、彼の力は微かに変わっていた。
「……あの男の“理”も、海の一部か」
潮風が頬を撫でる。
――もう、誰の定義にも縛られない。
海は、パライのものだ。感情のままで。
少年は、再び歩き出した。



