風のない夜、海は鏡のように静まり返っていた。
オーシャングリーンの髪を潮風になびかせ、パライは砂浜に腰を下ろして波打ち際を見つめていた。少年の瞳には、いつもの穏やかさとは裏腹に、荒れ狂う感情の渦があった。
「また……あの夢を見た」
夢の中で、彼の力は暴走し、何もかもを奪い去っていく。手を振れば津波が起こり、悔しさを覚えれば渦潮が巻く。海は彼の感情に忠実で、だからこそ残酷だった。
そのとき、背後で砂を踏む音がした。振り向くと、白髪の男が立っていた。白光と紅炎が交錯する瞳が、静かにパライを見下ろしている。
「葦火守(あしかもり)……どうしてここに?」
男は腕を組み、わずかに揺らめく炎を拳に宿しながら顎に手を当てた。
「海が騒がしかった。お前のせいだろう?」
パライは視線を落とした。
「……気にするな。すぐ収まる」
「気にするな、ね」
葦火守はゆっくり一歩前に出て、砂浜に拳を突き立てた。瞬間、地面が震え、赤い炎が円を描いて広がる。
「僕はな、その言い方が気に入らない」
パライの目が細まる。
「何がだ?」
「逃げるな」
葦火守の声は静かだが、熱を孕んでいた。
「力は裁きでもあり、救いでもある。それを恐れてどうする」
「俺は……怖いんだ。夢のように、また誰かを傷つけるのが」
葦火守は短く笑った。
「情熱を失くした力なんて、意味がない。信じるもののために磨け。それができねぇなら——」
拳が光り、炎が迸る。
「ここで僕が叩き直してやる」
パライの瞳に炎が燃える。海面がざわつき、波が岩を打ち砕く。
「……勝てると思うか?」
「護るために壊す。それでいい」
次の瞬間、海と炎がぶつかり合った。夜の浜辺が、咆哮と光に包まれた。
オーシャングリーンの髪を潮風になびかせ、パライは砂浜に腰を下ろして波打ち際を見つめていた。少年の瞳には、いつもの穏やかさとは裏腹に、荒れ狂う感情の渦があった。
「また……あの夢を見た」
夢の中で、彼の力は暴走し、何もかもを奪い去っていく。手を振れば津波が起こり、悔しさを覚えれば渦潮が巻く。海は彼の感情に忠実で、だからこそ残酷だった。
そのとき、背後で砂を踏む音がした。振り向くと、白髪の男が立っていた。白光と紅炎が交錯する瞳が、静かにパライを見下ろしている。
「葦火守(あしかもり)……どうしてここに?」
男は腕を組み、わずかに揺らめく炎を拳に宿しながら顎に手を当てた。
「海が騒がしかった。お前のせいだろう?」
パライは視線を落とした。
「……気にするな。すぐ収まる」
「気にするな、ね」
葦火守はゆっくり一歩前に出て、砂浜に拳を突き立てた。瞬間、地面が震え、赤い炎が円を描いて広がる。
「僕はな、その言い方が気に入らない」
パライの目が細まる。
「何がだ?」
「逃げるな」
葦火守の声は静かだが、熱を孕んでいた。
「力は裁きでもあり、救いでもある。それを恐れてどうする」
「俺は……怖いんだ。夢のように、また誰かを傷つけるのが」
葦火守は短く笑った。
「情熱を失くした力なんて、意味がない。信じるもののために磨け。それができねぇなら——」
拳が光り、炎が迸る。
「ここで僕が叩き直してやる」
パライの瞳に炎が燃える。海面がざわつき、波が岩を打ち砕く。
「……勝てると思うか?」
「護るために壊す。それでいい」
次の瞬間、海と炎がぶつかり合った。夜の浜辺が、咆哮と光に包まれた。



