(あ、7時半……!)

リビングでテレビを見ていたわたしは、夜の7時半になったのを確認すると、いつもの場所へと移動を始めた。一応みんなどこにいるのかを確認すると、お父さんもお母さんもいつもと同じ。お風呂に入ったり、キッチンにいたり。

(お兄ちゃん、何してんだろ)

どうせベッドの上でゲームでもしてるんだろうなと思い、お兄ちゃんのベッドをちらっと見ると、スマホで動画を見ている。

(……よし)

わたしの行動に気付かれないうちに、と思い行動を開始した。

カーテンの内側に移動して、窓の鍵をゆっくりと開ける。そしてできる限り音を出さないように……そっと窓を開けた。もうサンダルが無くても良いかなと思い、また素足で庭へと出て行く。

(えっと……)

わたしは右のポケットに手を入れて、ガサゴソと奥までかき回す。確か、右のポッケに入れたはず……

(あ、これか)

取り出したのは、ティッシュペーパーで包んだ鶏肉。今日の晩ご飯だったやつ。お兄ちゃんがお母さんやお父さんに猫の話をしている時に、バレないようにティッシュに包んでおいた。「猫は魚とか肉が好き」ネットに書いてあったけど、晩ご飯のおかずで鶏肉が出た時は「ラッキー!」って思った。

(……どこに置こう)

ティッシュで包まれた鶏肉。少しだけティッシュを開けて、どこへ置こうかと考える。

(窓から見やすいところが良いよね……)
(あ……!)

急いで部屋に戻って、国語のノートを1枚べリリ……と破る。

(……これで良いじゃん)

真っ白な国語のノートの上に、わたしは鶏肉をそっと置いた。後は……そっと黒猫ちゃんがやってくるのを待つだけ。みんないつもと同じことをしている。「上手く行くかな……」と胸を高鳴らせて、わたしは待った。

夜の8時。

黒猫ちゃんの行動も、いつもと同じだった。向かいの家の左側からひょっこりと姿を現し、色んなところの匂いをくんくんとチェック。

(来た来た……待ってれば、こっち来るよね……)

息を潜めて、じっと待つ。カーテンを握る手のひらも、少し汗をかいてきた。

プランターのチェックを終えると、黒猫ちゃんはじわじわ……とわたしに向かって歩いてきて、鶏肉の前までくると、予想通りくんくん……と匂いを嗅いでいる。

(……やった!)

ゆっくりとわたしも窓から出ていき、膝立ちの体勢で身を潜めた。できるだけ息もゆっくりと。

(……よしっ)

黒猫ちゃんはもしゃもしゃと鶏肉を食べ始め、スキがあるように見える。「このチャンスを逃してはいけない……」わたしはゆっくりゆっくり……驚かさないように、黒猫ちゃんに近づいた。そして手を伸ばす……。

(いやぁー……可愛いー……)

人差し指と中指の2本だけで、黒猫ちゃんの頭を撫でる。食事に夢中の黒猫ちゃん。初めてわたしに触らせてくれた。「驚かせないように」と力をできるだけ抜いて、ゆっくりと撫でた。

(……ふっさふさだぁ)

人生で初めての猫の頭。お布団みたいにふかふかだなぁとわたしは感じた。