お兄ちゃんに猫ちゃんの存在を教えてもらって、ドアの音で逃げられて。そして窓から出る作戦は上手く行った。手に入れることができたのは……黒猫であるということ。そして、あまり近くには来てくれないということ。

(よしよししてみたい)

わたしの次の目標は、黒猫ちゃんに触れることだった。野良猫なのか……誰か飼っているのかは分からない。首輪を付けてなかったから、もしかしたら野良猫なのかも。先ずはネットで色々と調べてみることにした。

(へー……飼い猫でも首輪付けない猫もいるんだ)
(黒猫って人懐っこいんだ……)

近くで見ることに成功したので、とにかくネットで情報チェックすることにした。

(確かに……あの黒猫ちゃん、つやつやだったような気もするな……)

野良猫だったら、もっと毛がぼさぼさだったり、ケガをしているかもしれない。ネットの通り、もしかすると誰かの家で飼っている猫なのかもしれないと思った。

(どうしよう……お兄ちゃんに言おうかなぁ……)

ここまではわたし1人で作戦を進めてきている。これからはお兄ちゃんに相談して、2人で協力した方が良いのかな……と思うようになっていた。

(……でもなぁ)

あまり相談しない方が良い。なぜか分からないけど、そんな予感がしていた。

「ねえ、お母さん?」
「何よ」
「もしさ、もしだよ?」
「……」
「もし、猫を飼うとするでしょ? そしたらさ……どんな猫が良い?」
晩ご飯の時間、お兄ちゃんは懲りずにお母さんに猫の質問をしている。

「飼いません」
「えー……そういうことじゃ無いって」

(いやいや……『そういうこと』でしょ?)
(ほんと……素直なんだか……バカなんだか……)

「相談しなくて正解だったな」とわたしは味噌汁をおかわりした。

お兄ちゃんの様子を見て、1人で作戦を進めた方が良いと判断したわたし。次の目標は引き続き「よしよし」すること。もし「よしよし」することができなかったとしても、触れてみたい。触ってみたい。それが次のわたしの目標だった。

その目標のために、わたしはあることを考えていた。別にネットに書いてあったわけじゃない。自分で思い付いた作戦。

「なぁー」
お兄ちゃんがわたしに突然話かけてくる。わたしは驚いて、みそ汁のわかめを喉に詰まらせるところだった。

「なっ……何?」
「美穂もさ、思わない?」
「えっ? 何を?」
「猫だよ。猫」

(いやぁー……こんなみんながいる前で、わたしに話を振らないでよ!)
(ほんと空気読めないんだから……)

「え? 猫がどうかしたの?」
「可愛いと思わない?」
「んー、可愛いとは思うけど……猫によるかな」
「まぁ、そうだけどさ」
「何よ」
「飼いたいなぁーとか思ったりしない? 良くない?」

(……直球過ぎる。マジできもい)

「お世話とか、大変じゃん」
「それは、俺がやるよ」
「無理だね」
「できるって」
「絶対途中で、わたしに『やっといて』って言う」
「言わないって」
「言う」
早くこの会話、終わってよ……と思っていた時。

「飼わないぞ」
お父さんが割って入ってくれた。

(ふぅ。……良かった)

わたしは無言で味噌汁を飲み干した。お兄ちゃんはずっと「良いじゃん」「良いじゃん」とお父さんにうったえ続けている。わたしの知らないところで、「飼いたい」って言い出しているらしかった。

「ごちそうさまー」
いつも通り、手を合わせてから自分の机に戻っていく。そう。わたしはいつも通り……。