「えーーー!!!」
「ほんと!!?」
どうせなぐさめられるんだろうなと思っていたわたしは、お父さんの言葉で一気にテンションが上がった。お兄ちゃんも。
「ああ」
「やったー! やったー!」
「引越しだー!」
飛び跳ねて喜ぶお兄ちゃんの横で……わたしは涙が止まらなかった。お母さんがそっとわたしの頭に手を乗せてくれる。
わたし達は引越しをすることになった。猫ちゃんと暮らせるように。この「ひらや」だと猫ちゃんと暮らせないからって。
「……そんなに泣くなよ、美穂」
「だって……嬉しいんだ……もん……」
お父さんとお母さんが顔を見合わせて笑っているように見える。
「ね! いつ? いつ引越すの?」
泣いているわたしの横で、お父さんに大声で話かけるお兄ちゃん。
相変わらず空気が読めない。恐らく新しい猫ちゃんが来ても……あんまり懐かない気がしている。
「まだ決めてないよ。これから探すから」
「そうね……色々サイト見てみないとね」
こうしてわたし達は、猫ちゃんと暮らせる家に引越しをすることが決まった。
「なぁ、良かったなぁー!」
寝る前なのに、ベッドでお兄ちゃんはずっとテンションが高いまま。
「うん」
「念願の猫かぁ! 次は絶対に一緒に寝るぞ」
「……頑張って」
「何だよ、その言い方。きっと大丈夫だって」
「なら良いけどね」
カチャリと鍵を開けて、久し振りにガララ……と窓を開ける。
「ん? 懐かしいなぁ」
「うん」
「黒猫ちゃん、お前……毎日見てたもんな」
「……うん」
「うるさいから……早く寝なさい」
お母さんが部屋に入ってきた。あまりないから珍しい。きっとお兄ちゃんの声が予想以上に大きいんだと思う。
「あっ……お母さん」
「何よ、窓開けてんの? 寒くない?」
「いや……」
お兄ちゃんが「ここからいつも黒猫ちゃんを見てたんだよ」と言うと、お母さんは笑った。
「何よ」
「……知ってたよ。美穂がいつも窓から見てたこと」
「えっ……?」
「夜の8時くらいでしょ? 確か」
「……知ってたんだ」
「それくらい分かるわよ」
「何だ……誰にもバレないように作戦立ててたのに……」
お母さんは少し間を空けてから、優しく私に話しかける。
「ずっと猫飼いたいんだろうなって思ってたよ?」
「……」
「お父さんといつも、『美穂がまた外見てる』って言ってたからね」
「……そうなんだ」
「うん。あなたが黒猫ちゃんの飼い主さんに言ったでしょ?」
「……え?」
「小さくても、大きくても『命』なんだよって」
「うん」
「それを聞いて、『これなら猫飼っても良いかもね』って決めたのよ」
「で? どんな猫ちゃんにするの?」
「黒猫! 絶対!」
「でね、また行くの! 猫カフェに。報告に行くの!」
今度はわたしが大きな声を出してしまった。
そっか。猫カフェのお姉さんが教えてくれたお陰で……うちにも黒猫ちゃんが来るんだ。
「ね! お母さん、また連れてって」
「そうね。お礼言わなきゃね」
「うん! 恩人だよ。恩人」
「ははっ……大げさねぇ」
窓の外。向かいの「ひらや」に
黒猫が姿を現すことは
2度となかった――
【完】
「ほんと!!?」
どうせなぐさめられるんだろうなと思っていたわたしは、お父さんの言葉で一気にテンションが上がった。お兄ちゃんも。
「ああ」
「やったー! やったー!」
「引越しだー!」
飛び跳ねて喜ぶお兄ちゃんの横で……わたしは涙が止まらなかった。お母さんがそっとわたしの頭に手を乗せてくれる。
わたし達は引越しをすることになった。猫ちゃんと暮らせるように。この「ひらや」だと猫ちゃんと暮らせないからって。
「……そんなに泣くなよ、美穂」
「だって……嬉しいんだ……もん……」
お父さんとお母さんが顔を見合わせて笑っているように見える。
「ね! いつ? いつ引越すの?」
泣いているわたしの横で、お父さんに大声で話かけるお兄ちゃん。
相変わらず空気が読めない。恐らく新しい猫ちゃんが来ても……あんまり懐かない気がしている。
「まだ決めてないよ。これから探すから」
「そうね……色々サイト見てみないとね」
こうしてわたし達は、猫ちゃんと暮らせる家に引越しをすることが決まった。
「なぁ、良かったなぁー!」
寝る前なのに、ベッドでお兄ちゃんはずっとテンションが高いまま。
「うん」
「念願の猫かぁ! 次は絶対に一緒に寝るぞ」
「……頑張って」
「何だよ、その言い方。きっと大丈夫だって」
「なら良いけどね」
カチャリと鍵を開けて、久し振りにガララ……と窓を開ける。
「ん? 懐かしいなぁ」
「うん」
「黒猫ちゃん、お前……毎日見てたもんな」
「……うん」
「うるさいから……早く寝なさい」
お母さんが部屋に入ってきた。あまりないから珍しい。きっとお兄ちゃんの声が予想以上に大きいんだと思う。
「あっ……お母さん」
「何よ、窓開けてんの? 寒くない?」
「いや……」
お兄ちゃんが「ここからいつも黒猫ちゃんを見てたんだよ」と言うと、お母さんは笑った。
「何よ」
「……知ってたよ。美穂がいつも窓から見てたこと」
「えっ……?」
「夜の8時くらいでしょ? 確か」
「……知ってたんだ」
「それくらい分かるわよ」
「何だ……誰にもバレないように作戦立ててたのに……」
お母さんは少し間を空けてから、優しく私に話しかける。
「ずっと猫飼いたいんだろうなって思ってたよ?」
「……」
「お父さんといつも、『美穂がまた外見てる』って言ってたからね」
「……そうなんだ」
「うん。あなたが黒猫ちゃんの飼い主さんに言ったでしょ?」
「……え?」
「小さくても、大きくても『命』なんだよって」
「うん」
「それを聞いて、『これなら猫飼っても良いかもね』って決めたのよ」
「で? どんな猫ちゃんにするの?」
「黒猫! 絶対!」
「でね、また行くの! 猫カフェに。報告に行くの!」
今度はわたしが大きな声を出してしまった。
そっか。猫カフェのお姉さんが教えてくれたお陰で……うちにも黒猫ちゃんが来るんだ。
「ね! お母さん、また連れてって」
「そうね。お礼言わなきゃね」
「うん! 恩人だよ。恩人」
「ははっ……大げさねぇ」
窓の外。向かいの「ひらや」に
黒猫が姿を現すことは
2度となかった――
【完】



