ある日の夜。お兄ちゃんが「内緒だぞ」とわたしに言ってきたことがあった。

「何かさ、最近……猫がうろついてるよな」
「……猫? 知らない」
「夕方と夜に、うちの周り、歩いてるんだよ」
「……ふーん」

わたし――遠藤美穂は、10歳の小学5年生。動物は嫌い。小学2年生の時に、セキセインコを飼ったことがあったけど……死んでしまった時ものすごくショックだった。それ以来……動物は嫌いになった。元々動物嫌いだったお父さんとお母さんに何度も何度もお願いして、ようやく飼うことができたから……なおさら、わたしはショックだったし、それにもう一つ気になることもあった。

「どうでも良いよ。猫なんて」
「可愛くないか?」
「……別に? 猫は興味ない」
わたしとは反対に、お兄ちゃんは猫や犬が大好きらしい。わたしとお遣いに行く時、犬を散歩させている人を見ると、「良いなぁ」とよく言ってる。

……インコが死んだ時のこと、忘れちゃったのかな?といつも思う。

「いやぁー……可愛いよなぁ……」
「……」
「飼いたいなぁ……」
「お父さんとお母さんがダメって言うよ? それにペット禁止だし」

3年前にインコを飼いたいとわたしがお父さんとお母さんにお願いした時、「ペットは禁止だから」と何度も言われた。あまりにもわたしが駄々をこねたから……大家さんに電話して、特別にインコだけ飼えるようにしてもらった。

「……分かってるよ。だから、内緒だよって言ってるんだよ」
「内緒って……誰に?」
「決まってるだろ。お父さんとお母さんだよ」
「何で? どうせ飼えないのに?」
「……まぁ……一応」

わたし達は「ひらや」に住んでいる。3つある「ひらや」の真ん中で、左と右には違う人が住んでいた。

「あーあ。誰かペット飼いださないかなぁー……」
暗くなった窓の外を見ているお兄ちゃん。何だか少し寂しそうに見えた。