「何で黒猫ちゃん、美穂の所ばっかで寝るんだよ」
「あなたと違って……ちゃんとお世話にしてるからじゃない?」
「俺だって……ちゃんとトイレ掃除してるのにさ……」
晩ご飯の唐揚げを食べながら、お母さんに愚痴をこぼすお兄ちゃん。
(お世話にはね……当たり前のことなんだよ……分かってないな)
「俺も黒猫ちゃんと寝たいなぁー……」
家に来てから1週間。黒猫ちゃんは寝る時いつもわたしの布団に来てくれる。ちょっと寒い日はもぞもぞ……と布団の中に入ってくるし、ちょっと暑い日はわたしの布団の上で寝てる。
ちょっと重たいけど……好きでいてくれてるんだなぁと思うと、何だか嬉しい。
「なぁ、何か秘密……あるんだろ?」
「知りたい?」
「知りたい!」
「……どうしようかなぁ」
「もったいぶらないで教えろよ……」
「じゃ、お兄ちゃんの唐揚げ1つくれたら……良いよ」
しぶしぶお兄ちゃんは、わたしのお皿に唐揚げを乗せた。
「じゃ、仕方ない。教えてあげる」
「お兄ちゃんはね……しつこいの」
どや顔でわたしは唐揚げを口に入れた。お母さんが少しだけ頷いたような気がするけど、気のせいかな?と思った。
夜、お兄ちゃんがブツブツ言っているのが耳に入る。
「何だよー……もうしつこくないだろ? なぁ……」
黒猫ちゃんに必死に話しかけてるけど、「それがしつこいってことだよ」とは言わなかった。
ふいっと顔をそむけるように、黒猫ちゃんはお兄ちゃんの場所を離れて、てくてくとわたしの布団のところまでやってくる。
「あら! 黒猫ちゃん! 一緒に寝るのぉ?」
よしよしと優しく撫でた。グロロ……と喉を鳴らしながら、目を閉じる黒猫ちゃん。うらめしそうに視線を送ってるお兄ちゃんのことは無視した。
「電話来たぞ」
お父さんの言葉が、幸せだった日々に一気に終わりを告げた。
「飼い主さん。今日、夜来るってよ」
分かっていたことであるけど……お兄ちゃんもわたしも、大好きな野菜炒めが全く喉を通らなかった。
「……そう」
「まぁ……仕方無いよ。むしろ喜ぶべきだけどな。本当は」
「……分かってる」
ダメだ。みんなの前で涙が止まらなかった。
いつもはエアコンの下で寝ている黒猫ちゃんが、ぴょんと飛び降りてわたしのところまでやってきた。
「……黒猫ちゃん……」
「にゃぁん」
「見つかったって。飼い主さん……」
頭を撫でると、「にゃぁ」と鳴いて、わたしに頭を擦りつけてくる。……何度も何度も。黒猫ちゃんの温度を感じたわたしは……また泣いた。
夜の8時にやってきたのは女の人だった。すごく疲れたような顔。
「クロちゃーーーーん……」
涙を流しながら黒猫ちゃんに向かって話かけているのを見て、「あぁ、この人の所に帰るんだな」と改めて感じた。
「にゃぁ」と鳴いて、黒猫ちゃんは女の人の所にてくてく歩いて行く。わたしのところから離れて行く黒猫ちゃん。背中を見ていると、じんわりとまた涙が出てきた。
(そっか。この人がお母さんなんだ……)
(……元々、この人の家にいたんだよね)
悲しくて、寂しい。
「本当にありがとうございました」
「もう……本当に。何てお礼を言っていいのか……」
女の人は、何度も何度もお母さんとお父さんに頭を下げている。わたしはぼんやり、テレビでも見ている感じ。
「あなた達も、本当にありがとう」
女の人が、わたしとお兄ちゃん向かってお礼を言ってくれた。
「……黒猫ちゃん。可愛かった」
「大事にしてくれてたんだね。……ありがとね」
「うん」
「本当にありがとう」
「ううん。あのね」
「ん?」
「黒猫ちゃん……ずっとお外で寂しそうだったから……お家に入れてあげて?」
「……そうね」
「小っちゃいけど……人間と同じ『命』なんだよって……お姉さんが言ってた」
「……そうね」
「うん。小さくても大きくても『命』だよ」
その後も何度もお父さん達に頭を下げて……女の人は帰っていった。
黒猫ちゃんと一緒に。
「あなたと違って……ちゃんとお世話にしてるからじゃない?」
「俺だって……ちゃんとトイレ掃除してるのにさ……」
晩ご飯の唐揚げを食べながら、お母さんに愚痴をこぼすお兄ちゃん。
(お世話にはね……当たり前のことなんだよ……分かってないな)
「俺も黒猫ちゃんと寝たいなぁー……」
家に来てから1週間。黒猫ちゃんは寝る時いつもわたしの布団に来てくれる。ちょっと寒い日はもぞもぞ……と布団の中に入ってくるし、ちょっと暑い日はわたしの布団の上で寝てる。
ちょっと重たいけど……好きでいてくれてるんだなぁと思うと、何だか嬉しい。
「なぁ、何か秘密……あるんだろ?」
「知りたい?」
「知りたい!」
「……どうしようかなぁ」
「もったいぶらないで教えろよ……」
「じゃ、お兄ちゃんの唐揚げ1つくれたら……良いよ」
しぶしぶお兄ちゃんは、わたしのお皿に唐揚げを乗せた。
「じゃ、仕方ない。教えてあげる」
「お兄ちゃんはね……しつこいの」
どや顔でわたしは唐揚げを口に入れた。お母さんが少しだけ頷いたような気がするけど、気のせいかな?と思った。
夜、お兄ちゃんがブツブツ言っているのが耳に入る。
「何だよー……もうしつこくないだろ? なぁ……」
黒猫ちゃんに必死に話しかけてるけど、「それがしつこいってことだよ」とは言わなかった。
ふいっと顔をそむけるように、黒猫ちゃんはお兄ちゃんの場所を離れて、てくてくとわたしの布団のところまでやってくる。
「あら! 黒猫ちゃん! 一緒に寝るのぉ?」
よしよしと優しく撫でた。グロロ……と喉を鳴らしながら、目を閉じる黒猫ちゃん。うらめしそうに視線を送ってるお兄ちゃんのことは無視した。
「電話来たぞ」
お父さんの言葉が、幸せだった日々に一気に終わりを告げた。
「飼い主さん。今日、夜来るってよ」
分かっていたことであるけど……お兄ちゃんもわたしも、大好きな野菜炒めが全く喉を通らなかった。
「……そう」
「まぁ……仕方無いよ。むしろ喜ぶべきだけどな。本当は」
「……分かってる」
ダメだ。みんなの前で涙が止まらなかった。
いつもはエアコンの下で寝ている黒猫ちゃんが、ぴょんと飛び降りてわたしのところまでやってきた。
「……黒猫ちゃん……」
「にゃぁん」
「見つかったって。飼い主さん……」
頭を撫でると、「にゃぁ」と鳴いて、わたしに頭を擦りつけてくる。……何度も何度も。黒猫ちゃんの温度を感じたわたしは……また泣いた。
夜の8時にやってきたのは女の人だった。すごく疲れたような顔。
「クロちゃーーーーん……」
涙を流しながら黒猫ちゃんに向かって話かけているのを見て、「あぁ、この人の所に帰るんだな」と改めて感じた。
「にゃぁ」と鳴いて、黒猫ちゃんは女の人の所にてくてく歩いて行く。わたしのところから離れて行く黒猫ちゃん。背中を見ていると、じんわりとまた涙が出てきた。
(そっか。この人がお母さんなんだ……)
(……元々、この人の家にいたんだよね)
悲しくて、寂しい。
「本当にありがとうございました」
「もう……本当に。何てお礼を言っていいのか……」
女の人は、何度も何度もお母さんとお父さんに頭を下げている。わたしはぼんやり、テレビでも見ている感じ。
「あなた達も、本当にありがとう」
女の人が、わたしとお兄ちゃん向かってお礼を言ってくれた。
「……黒猫ちゃん。可愛かった」
「大事にしてくれてたんだね。……ありがとね」
「うん」
「本当にありがとう」
「ううん。あのね」
「ん?」
「黒猫ちゃん……ずっとお外で寂しそうだったから……お家に入れてあげて?」
「……そうね」
「小っちゃいけど……人間と同じ『命』なんだよって……お姉さんが言ってた」
「……そうね」
「うん。小さくても大きくても『命』だよ」
その後も何度もお父さん達に頭を下げて……女の人は帰っていった。
黒猫ちゃんと一緒に。



