(あ! いた! 黒猫ちゃん!)
ちゃんと来てくれたんだという嬉しさと……大丈夫なのかなという不安な気持ちで、何も考えることができなくなっていた。
(来て……こっちおいで……)
よたよたと歩く黒猫ちゃんに、頭の中からテレパシーを送る。近づくと逃げちゃうかも知れないから……。
いつもより1時間ほど早い。でももしかすると、いつも8時になる前からずっと歩き回っていたのかも知れない。
(来た! ……こっち来た!)
真っすぐわたしの方に向かって歩いてくる黒猫ちゃん。左足が悪いのか……左足を前に出す時に、一気に体勢が崩れるように見えた。「おいで」「おいで」とわたしは心の中でテレパシーを送り続ける……
「あー……猫ちゃーん……」
玄関先をゆっくりと通過して、明るい玄関の中に入ってきた……
「ね、あなた……大丈夫?」
小さい声で話かけても、じっとわたしの膝のところで動かなくなった。
「にゃぁ」
蚊の鳴くような細い声で、一声だけ出す。
(何、これ……)
やっぱり左足だった。黒い毛が明らかに血だらけになっているのが分かるほど……どこか怪我をしていた。
「……ちょっと……あなた大丈夫?」
「……にゃっ」
わたしの顔を見て、また小さく鳴いた。
「ねえ! お父さーん!」
ふすまをガラッと開けて、お父さんに向けて声を出す。わたしはこの場を離れるわけにはいかない。
「ん-? どうしたー?」
スマホを見続けながら、リビングから返事が聞こえた。
「ねー! 来てー! こっちー」
「んー?」
「良いからー! はやくーー」
「もう……どうしたー」
ようやくお父さんが立ち上がって、こっちに歩いてきてくれた。……ちょっと面倒臭そうに。
「どうした……? わあ! 猫か」
「そうなの。ねえ、この子……怪我してるよ?」
「あぁ……左足……血が凄いな」
玄関先に倒れ込んでいる黒猫ちゃんは、おとうさんの顔を見て鳴いた。
「……にゃん」
「……よし。……ちょっと待ってな」
そう言い残し、お父さんはリビングでスマホを調べ始める。
「あぁ……ここなら……」
どこかにお父さんは電話をかけながら、奥の部屋へと入って行った。
「お母さーん! ねえーー!」
お父さんがいなくなり、わたしはお母さんにも声をかける。
「何? どうかした?」
「猫ちゃーん。猫ちゃんが来てるのー!」
「えー? 何? 猫?」
「そうー! めっちゃ怪我してるの!」
「えー? 何、怪我?」
玄関まで歩いてきたお母さんも、黒猫ちゃんを見て驚く。「きっと喧嘩でもしたのかな……」と言っていた。
(喧嘩か……)
「大丈夫―……? あなた……」
わたしはお母さんの前で、黒猫ちゃんの頭をよしよしとさすった。これぐらいしかできることがなかったから。
「よし、連れてきて良いって」
お父さんがタオルを持って、玄関先まで小走りでやってきて言う。
「どこに?」
「ん? 病院だよ」
「え! 病院? 開いてるの?」
「夜間の病院。ちょっと言ってくるよ」
お父さんがタオルで黒猫を優しく包み込む。「にゃっ」と一声だけ鳴いたけど……全く嫌がらなかった。逃げ出しちゃうかと思ったけど。
黒猫ちゃんは段ボールで、お父さんの車へと運ばれて行った――
ちゃんと来てくれたんだという嬉しさと……大丈夫なのかなという不安な気持ちで、何も考えることができなくなっていた。
(来て……こっちおいで……)
よたよたと歩く黒猫ちゃんに、頭の中からテレパシーを送る。近づくと逃げちゃうかも知れないから……。
いつもより1時間ほど早い。でももしかすると、いつも8時になる前からずっと歩き回っていたのかも知れない。
(来た! ……こっち来た!)
真っすぐわたしの方に向かって歩いてくる黒猫ちゃん。左足が悪いのか……左足を前に出す時に、一気に体勢が崩れるように見えた。「おいで」「おいで」とわたしは心の中でテレパシーを送り続ける……
「あー……猫ちゃーん……」
玄関先をゆっくりと通過して、明るい玄関の中に入ってきた……
「ね、あなた……大丈夫?」
小さい声で話かけても、じっとわたしの膝のところで動かなくなった。
「にゃぁ」
蚊の鳴くような細い声で、一声だけ出す。
(何、これ……)
やっぱり左足だった。黒い毛が明らかに血だらけになっているのが分かるほど……どこか怪我をしていた。
「……ちょっと……あなた大丈夫?」
「……にゃっ」
わたしの顔を見て、また小さく鳴いた。
「ねえ! お父さーん!」
ふすまをガラッと開けて、お父さんに向けて声を出す。わたしはこの場を離れるわけにはいかない。
「ん-? どうしたー?」
スマホを見続けながら、リビングから返事が聞こえた。
「ねー! 来てー! こっちー」
「んー?」
「良いからー! はやくーー」
「もう……どうしたー」
ようやくお父さんが立ち上がって、こっちに歩いてきてくれた。……ちょっと面倒臭そうに。
「どうした……? わあ! 猫か」
「そうなの。ねえ、この子……怪我してるよ?」
「あぁ……左足……血が凄いな」
玄関先に倒れ込んでいる黒猫ちゃんは、おとうさんの顔を見て鳴いた。
「……にゃん」
「……よし。……ちょっと待ってな」
そう言い残し、お父さんはリビングでスマホを調べ始める。
「あぁ……ここなら……」
どこかにお父さんは電話をかけながら、奥の部屋へと入って行った。
「お母さーん! ねえーー!」
お父さんがいなくなり、わたしはお母さんにも声をかける。
「何? どうかした?」
「猫ちゃーん。猫ちゃんが来てるのー!」
「えー? 何? 猫?」
「そうー! めっちゃ怪我してるの!」
「えー? 何、怪我?」
玄関まで歩いてきたお母さんも、黒猫ちゃんを見て驚く。「きっと喧嘩でもしたのかな……」と言っていた。
(喧嘩か……)
「大丈夫―……? あなた……」
わたしはお母さんの前で、黒猫ちゃんの頭をよしよしとさすった。これぐらいしかできることがなかったから。
「よし、連れてきて良いって」
お父さんがタオルを持って、玄関先まで小走りでやってきて言う。
「どこに?」
「ん? 病院だよ」
「え! 病院? 開いてるの?」
「夜間の病院。ちょっと言ってくるよ」
お父さんがタオルで黒猫を優しく包み込む。「にゃっ」と一声だけ鳴いたけど……全く嫌がらなかった。逃げ出しちゃうかと思ったけど。
黒猫ちゃんは段ボールで、お父さんの車へと運ばれて行った――



