帰りの電車の中で、お姉さんにたくさん教えてもらったことを思い出す。飼い猫かどうか分からないしな……そもそも、お母さんに何も言っていない。
「黒猫ちゃんだったら、誰かの飼い猫かもね」
「綺麗な毛並みで、黒猫の野良は……あんまりいないと思うけど」
最後にお姉さんは教えてくれた。最近は首輪をしていない猫ちゃんも多いらしくて、首輪をしていないから「野良猫」って決めるのは、あんまり良くないみたい。
(もう……ダメだ。1人で考えても限界。分からない)
わたしはお母さんとお父さんに相談してみよう。電車の小さな冒険は、お母さんが帰ってくる前までに、幕を閉じた。
「晩ご飯、ちょっと遅くなるからねー」
「はーい。どれくらい?」
「……30分くらいかな」
「分かった」
仕事が大変だったみたいで、いつもよりちょっと遅く帰ってきたお母さん。慌ててキッチンに向かって、冷蔵庫の中をガサガサしてる。
(黒猫ちゃんの時間と重なっちゃうなー……)
「ただいま」
お母さんが忙しく包丁を握っていると、お父さんの声も聞こえる。
「おかえり」
「何か、猫がいたな」
(……? 猫?)
「猫? どこ?」
「ん? 向かいの家の所。黒かったから、黒猫だろうけど」
きっといつもの黒猫ちゃんだ……と思いながら、わたしは落ち着いた返事をすることにした。
「へぇ。可愛かった?」
「歩き方が変だったから……もしかすると怪我でもしてるのかもな」
(絶対、あの子じゃん……)
「……そうなんだ」
まだ怪我してるんだな……と思うと、なぜだかちょっと心の奥が痛くなる。
(……ちょっとドア、開けても良いよね)
晩ご飯の準備も落ち着いたみたいで、お母さんとお父さんの動きがいつも通りになってきた。ちょっとピリピリとしていた家の中も、ようやく暖っかい雰囲気になった。
わたしはリビングをそっと出て、玄関のドアをゆっくりと開いた。この前学校で先生に教えてもらったスプレーなんて買えないから、音が多少出るけど仕方ない。
カララララ……
だいぶ陽が落ちて、これから夜がやってくる。でもまだ薄っすらと明かりが残る外の景色は、風がとても気持ち良い。ここで待つことにした。黒猫ちゃんを。
(ま……来るか分からないけど)
お父さんの言葉を聞いて落ち着かなくなり、もう晩ご飯を食べてから8時まで待つのは無理な気がしたから。じっとしていられなかった。
リビングを少し開いたふすまの間から覗くと、お父さんとお兄ちゃんはスマホに釘付け。わたしが開いた玄関の前に座っていることに気付いていない。
(無事だと良いな……黒猫ちゃん)
そもそも来るかどうか分からない黒猫ちゃんのことをずっと考えてしまう。
その時だった。
向かいの家の横から、いつもよりさらにゆっくりとした動きで、黒猫ちゃんが現れたのは――
「黒猫ちゃんだったら、誰かの飼い猫かもね」
「綺麗な毛並みで、黒猫の野良は……あんまりいないと思うけど」
最後にお姉さんは教えてくれた。最近は首輪をしていない猫ちゃんも多いらしくて、首輪をしていないから「野良猫」って決めるのは、あんまり良くないみたい。
(もう……ダメだ。1人で考えても限界。分からない)
わたしはお母さんとお父さんに相談してみよう。電車の小さな冒険は、お母さんが帰ってくる前までに、幕を閉じた。
「晩ご飯、ちょっと遅くなるからねー」
「はーい。どれくらい?」
「……30分くらいかな」
「分かった」
仕事が大変だったみたいで、いつもよりちょっと遅く帰ってきたお母さん。慌ててキッチンに向かって、冷蔵庫の中をガサガサしてる。
(黒猫ちゃんの時間と重なっちゃうなー……)
「ただいま」
お母さんが忙しく包丁を握っていると、お父さんの声も聞こえる。
「おかえり」
「何か、猫がいたな」
(……? 猫?)
「猫? どこ?」
「ん? 向かいの家の所。黒かったから、黒猫だろうけど」
きっといつもの黒猫ちゃんだ……と思いながら、わたしは落ち着いた返事をすることにした。
「へぇ。可愛かった?」
「歩き方が変だったから……もしかすると怪我でもしてるのかもな」
(絶対、あの子じゃん……)
「……そうなんだ」
まだ怪我してるんだな……と思うと、なぜだかちょっと心の奥が痛くなる。
(……ちょっとドア、開けても良いよね)
晩ご飯の準備も落ち着いたみたいで、お母さんとお父さんの動きがいつも通りになってきた。ちょっとピリピリとしていた家の中も、ようやく暖っかい雰囲気になった。
わたしはリビングをそっと出て、玄関のドアをゆっくりと開いた。この前学校で先生に教えてもらったスプレーなんて買えないから、音が多少出るけど仕方ない。
カララララ……
だいぶ陽が落ちて、これから夜がやってくる。でもまだ薄っすらと明かりが残る外の景色は、風がとても気持ち良い。ここで待つことにした。黒猫ちゃんを。
(ま……来るか分からないけど)
お父さんの言葉を聞いて落ち着かなくなり、もう晩ご飯を食べてから8時まで待つのは無理な気がしたから。じっとしていられなかった。
リビングを少し開いたふすまの間から覗くと、お父さんとお兄ちゃんはスマホに釘付け。わたしが開いた玄関の前に座っていることに気付いていない。
(無事だと良いな……黒猫ちゃん)
そもそも来るかどうか分からない黒猫ちゃんのことをずっと考えてしまう。
その時だった。
向かいの家の横から、いつもよりさらにゆっくりとした動きで、黒猫ちゃんが現れたのは――



