「あ……猫ちゃん」
「良かったね。あなたの事、気に入ってくれたみたいだよ」
「えへへ……ほんと?」
「うん。優しく頭を撫でてあげると良いよ。ゆっくり優しくね」
ゆっくりとしゃがみ込み、頭を撫でた。ゴロゴロ……ゴロゴロ……と喉を鳴らしている。可愛いハチワレちゃん。黒いんだけど、おでこの部分だけ白く、ハチの字みたいになってる。「ハチワレ」って言う言葉は、動画で勉強した。

「可愛いなー……」
「猫ちゃんはさ、正直だからね」
「……どういうこと?」
「ん? 嫌いな人の所には、あまり近づかないのよ」
「へぇー……」
「うるさいのも苦手だしね」
「だから優しくやるんだ」
「人間にする事と、同じ事をしてあげれば良いんだけどね」
「……そっか」

わたしは帰り道、お姉さんが言っていた「同じ命なのにね」という言葉が、頭から離れなかった。

これまでわたしは、猫ちゃんを「可愛い」としか思ってなかったけど……わたしと同じように生きてるし、意思もあるんだなって思った。

(人間と同じなんだな……)

いつも庭に来ている黒猫ちゃんに対する見方が、少し変わった気がした。

「良い猫カフェだったじゃない」
考え事をするわたしに、お母さんが優しく微笑む。

「……うん」
「猫ちゃんも可愛かったしね」
「うん」
「お兄ちゃんも来れば良かったね」
「……お兄ちゃんは来ないよ。こういう時、いつもそうだもん」

「お兄ちゃんに内緒だよ」と言って、お母さんはクレープを買ってくれた。

――

――

――

「いただきまーす」
クレープのお陰なのか、少し落ち込んでいたかのようなわたしの気持ちは、すっかり晴れ渡っていた。晩ご飯の時には、すっかり元通り。

「今日、行ってきたのか? 猫カフェ」
お父さんがカレーを食べながら、わたしの方を向く。

「うん。楽しかった」
「そうか」

「店員さんがすごく良い人でね」
お母さんが助け舟を出してくれた。

「へぇ。どんな感じだったんだ?」
「えっとねー……うーん……優しかった」
「……何だそりゃ?」
「冗談だよ。保護猫について、色々教えてくれたの」
「保護猫?」
「そう。最初はさ、『可愛いー』って猫を飼うんだけど……捨てちゃう人もいるんだって」
「……なるほどな」
「そういう猫ちゃん達のこと、保護猫って呼ぶんだよ。お姉さんが教えてくれた」
「ふぅーん。ちゃんとした店員さんだったんだなぁ」
「うん。可愛くて優しかった!」
「そうか。行って良かったみたいだな」

お兄ちゃんの方にちらりと視線を向けると、テレビを見ながら黙々とカレーを食べている。

「ね、お兄ちゃんも……今度行こうよ! 猫カフェ!」
「まぁ……気が向いたら」

(相変わらずだなぁ……)
(放っておけば機嫌も直るか……)

「絶対にお兄ちゃんだって行きたかったくせに」と思いながら、わたしはカレーをおかわりした。