庭に黒猫ちゃんがやってくるようになってから、わたしの生活は変わった。

最初は、何色なのかすら分からなかったのに……ご飯をあげることもできたし、触ることもできた。ますます「猫を飼いたい」と思うようになっていた。

家の中を飛び回って……頭をよしよしと撫でる。そんな毎日をイメージしていると、「何て毎日楽しいんだろう!」と思うようになっている。アイドルを推し活している友達の気持ちが……何となく分かる気がした。ちょっと違うかも知れないけど。

わたしは、次の作戦に移ることを決めた――

(今なら大丈夫よね……)

晩ご飯の時間が終わり、お父さんはお風呂に入っている。お母さんはいつも通り、キッチンで何かしてる。たぶん、明日の朝ご飯の準備だと思う。

「ねえ、お母さん」
高なる心臓。わたしは呼吸を整えてから、お母さんに声をかけた。

「ん? 何? どうかしたの?」
「えっとさ、今……話かけて良い?」
「何よ、改まって」
お母さんは笑いながら、タオルで手を拭いた。

「わたし、行きたい場所があるの。今度連れてって?」
「行きたい場所? どこ?」
「……猫カフェ」
ついに言ってしまった……好きな人に告白するのと同じくらい緊張する……

「猫カフェ?」
「そう。ネットで見たの。猫ちゃんとね、遊べるんだって。良い?」
「……うーん」
お母さんは急に考え込んでしまった。ほんとに告白の返事を待っているみたいで……待ち時間がとってもツラい。

「ま、良いけど。どこにあるの?」
「えーー!! 良いの?」
「まぁ……」
「やったー!!!」
告白は成功した。わたしは声をあげてバンザイをした。

「ちょっと待ってて!」
慌ててお兄ちゃんを呼びに行く。スマホで動画を見ている。

「ね! お兄ちゃん! 今度、猫カフェ連れてってくれるって!」
「……猫カフェ?」
「そう! 猫ちゃんと遊べるんだよ!」
「……そう」
全く興味がなさそうに返事をする。

「何? 行きたくないの? 猫ちゃんいるんだよ?」
「……考えとく」
「えぇー……」
お兄ちゃんは再びスマホの動画に目を移した。

まだ引きずっているのかどうかは分からないけど……とりあえず放っておく。

(……何なのよ)

あれだけ「一緒に頑張ろう!」みたいなこと言ってたのに……と、ちょっと見損なった。

『ねこの家』
ネットで調べた時に、わたしが一番行ってみたい猫カフェ。ホームページを見ても仕組みが良く分からないけど……お母さんもいるから何とかなると思った。街中にある猫カフェを色々チェックしてみたけど、『ねこの家』にいる猫ちゃん達が、一番数も多そうだし、お店の中も綺麗に見えた。

(これで、お母さんにわたしが猫が好きって思ってもらえるよね!)

次の作戦は、静かに成功を収めた。