「……いただきまーす……」
お兄ちゃんのテンションは、晩ご飯の時も明らかに低かった。わたしも同じように落ち込んでいたけど、お腹は空く。とりあえずご飯を食べて、元気を出そうと思っていた。
「何よ。何かあったの?」
お母さんがお兄ちゃんをじっと見つめながら言った。
「……別に」
「何よ。誰かと喧嘩でもしたの?」
「……いや。そーいうやつじゃない」
「……じゃ、どーゆーやつよ?」
お兄ちゃんはお母さんの問いかけを無視して、からあげに手を伸ばす。
「まぁ……食べる元気があるなら、良いけどね」
ふっと笑って、テレビに目を向けた。
(やっぱ気付くんだな、お母さん)
ちょっと空気が重いな……と思い、わたしはお母さんに聞いてみた。
「ね、お母さん」
「何?」
「これからさ、お肉が多い方が良いなぁ。おかず」
「あんたも突然、どうしたの」
「いやぁー……最近、お肉好きになっちゃって」
笑ってごまかした。
「お肉? そんな好きなの?」
「うん。何て言うんだっけ? ささみ? とか」
「ささみ……? パサパサしてて嫌いって言ってなかった?」
(あ……しまった)
一度サラダでささみが出てきたことがあったけど……「パサパサしてて嫌い」ってそういえば、言ったことがあった。
「もう、大人になったのよ。わたし。……それにダイエットに良いって書いてあったもん」
「……そう」
「後ね、お刺身が食べたいのよ」
「刺身?」
「そう。何かさ……海の幸って、良いよね!」
明らかにお母さんが変な目でわたしを見ている……バレてはいけない。目をそらしてはいけない。
「ご飯? 猫ちゃんの?」
「うちはキャットフードあげてるけど……」
「お肉とかお魚とかじゃないかな」
「あんまり人間が食べるもの、あげない方が良いみたいよ」
抱っこはできなかったけど……正人くんのお母さんから「猫ちゃんに何を食べさせてあげたら良いのか」実はちゃんと質問している。
「お肉とお魚」ここにわたしは辿り着いていた。本当はキャットフードをちゃんとあげた方が良いらしいけど……買ってしまうとお母さん達にバレる可能性がある。
「何か……美穂も今日、変よね」
「そう? 食の好みが変わっただけだよ」
内心ドキドキしながらも、全力でわたしはとぼけた。
「はぁ」
晩ご飯が終わっても、お兄ちゃんはベッドでずっとため息をついている。……妹としては、こういう時に頼もしくなって欲しいといつも思っている。
「何よ。まだ落ち込んでるの……?」
「……」
「情けない……カッコ悪」
「うるせえなぁ……」
夜の8時が近づいてきた。でも今日は庭に現れる黒猫ちゃんにあげるご飯が無い。
(仕方ないな……今日は見るだけか)
ベッドでぼんやりしているおにいちゃんをよそに、わたしはいつも通りカーテンの裏でスタンバイ。時間は8時を少し回っていた。
(あ……やっぱり、来てくれるようになってるんだ)
暗闇の中、向かいの家の前をうろうろしている黒猫ちゃんを見つけた。一応、窓の鍵は開けてあるから、いざとなったら外に出れるけど……あげるものは持っていない。黒猫ちゃんは、トコトコとわたしの家の方に向かって歩いてくる。
(……)
いつもは草だったり、プランターだったり、家の壁だったり……色々なところの匂いをくんくんとチェックしながら、うちに歩いてくるのに……真っすぐ向かってきているように見える。
(……?)
黒猫ちゃんは、わたしが鶏肉をあげた場所まで歩いてくると、ピタリと立ち止まる。その場所からわたしの方に視線を置いたまま、全く動かなくなった。
(え?)
(……何?)
(もしかして、待ってるの?)
お父さん達にばれないように、窓をそっと開けて裸足で外へ出る。やっぱり黒猫ちゃんは背筋をピンと伸ばしたまま、わたしの方をじっと見ている。
「こんばんはぁ……」
小声で黒猫ちゃんに話かけてみた。
「にゃー……ん」
返事をするかのように、小声で鳴いた。
(あー……返事してくれてるぅ……)
(ごめんね-……今日は何もないのよね……)
言葉で言っても理解してもらえないのは分かっているけど……わたしは黒猫ちゃんに小声で誤る。そして部屋に戻り、ゆっくりと窓を閉めた。
お兄ちゃんのテンションは、晩ご飯の時も明らかに低かった。わたしも同じように落ち込んでいたけど、お腹は空く。とりあえずご飯を食べて、元気を出そうと思っていた。
「何よ。何かあったの?」
お母さんがお兄ちゃんをじっと見つめながら言った。
「……別に」
「何よ。誰かと喧嘩でもしたの?」
「……いや。そーいうやつじゃない」
「……じゃ、どーゆーやつよ?」
お兄ちゃんはお母さんの問いかけを無視して、からあげに手を伸ばす。
「まぁ……食べる元気があるなら、良いけどね」
ふっと笑って、テレビに目を向けた。
(やっぱ気付くんだな、お母さん)
ちょっと空気が重いな……と思い、わたしはお母さんに聞いてみた。
「ね、お母さん」
「何?」
「これからさ、お肉が多い方が良いなぁ。おかず」
「あんたも突然、どうしたの」
「いやぁー……最近、お肉好きになっちゃって」
笑ってごまかした。
「お肉? そんな好きなの?」
「うん。何て言うんだっけ? ささみ? とか」
「ささみ……? パサパサしてて嫌いって言ってなかった?」
(あ……しまった)
一度サラダでささみが出てきたことがあったけど……「パサパサしてて嫌い」ってそういえば、言ったことがあった。
「もう、大人になったのよ。わたし。……それにダイエットに良いって書いてあったもん」
「……そう」
「後ね、お刺身が食べたいのよ」
「刺身?」
「そう。何かさ……海の幸って、良いよね!」
明らかにお母さんが変な目でわたしを見ている……バレてはいけない。目をそらしてはいけない。
「ご飯? 猫ちゃんの?」
「うちはキャットフードあげてるけど……」
「お肉とかお魚とかじゃないかな」
「あんまり人間が食べるもの、あげない方が良いみたいよ」
抱っこはできなかったけど……正人くんのお母さんから「猫ちゃんに何を食べさせてあげたら良いのか」実はちゃんと質問している。
「お肉とお魚」ここにわたしは辿り着いていた。本当はキャットフードをちゃんとあげた方が良いらしいけど……買ってしまうとお母さん達にバレる可能性がある。
「何か……美穂も今日、変よね」
「そう? 食の好みが変わっただけだよ」
内心ドキドキしながらも、全力でわたしはとぼけた。
「はぁ」
晩ご飯が終わっても、お兄ちゃんはベッドでずっとため息をついている。……妹としては、こういう時に頼もしくなって欲しいといつも思っている。
「何よ。まだ落ち込んでるの……?」
「……」
「情けない……カッコ悪」
「うるせえなぁ……」
夜の8時が近づいてきた。でも今日は庭に現れる黒猫ちゃんにあげるご飯が無い。
(仕方ないな……今日は見るだけか)
ベッドでぼんやりしているおにいちゃんをよそに、わたしはいつも通りカーテンの裏でスタンバイ。時間は8時を少し回っていた。
(あ……やっぱり、来てくれるようになってるんだ)
暗闇の中、向かいの家の前をうろうろしている黒猫ちゃんを見つけた。一応、窓の鍵は開けてあるから、いざとなったら外に出れるけど……あげるものは持っていない。黒猫ちゃんは、トコトコとわたしの家の方に向かって歩いてくる。
(……)
いつもは草だったり、プランターだったり、家の壁だったり……色々なところの匂いをくんくんとチェックしながら、うちに歩いてくるのに……真っすぐ向かってきているように見える。
(……?)
黒猫ちゃんは、わたしが鶏肉をあげた場所まで歩いてくると、ピタリと立ち止まる。その場所からわたしの方に視線を置いたまま、全く動かなくなった。
(え?)
(……何?)
(もしかして、待ってるの?)
お父さん達にばれないように、窓をそっと開けて裸足で外へ出る。やっぱり黒猫ちゃんは背筋をピンと伸ばしたまま、わたしの方をじっと見ている。
「こんばんはぁ……」
小声で黒猫ちゃんに話かけてみた。
「にゃー……ん」
返事をするかのように、小声で鳴いた。
(あー……返事してくれてるぅ……)
(ごめんね-……今日は何もないのよね……)
言葉で言っても理解してもらえないのは分かっているけど……わたしは黒猫ちゃんに小声で誤る。そして部屋に戻り、ゆっくりと窓を閉めた。



