「……ママー?」
「ん? どうしたの?」
志穂ちゃんが、わたしの左太ももに隠れながら、指さした。

「何かね、あのかげに……何かいたよ?」
「あの影の所? 何だろうね」
「しっぽがね、くりんってしてた」
「何だろ? 猫ちゃんかな?」

「あっ……猫ちゃんかも! 黒かったよ!?」
志穂ちゃんは向かいの家の隅に向かって走り出す。

「あっ……こらこら。走ると転ぶよー?」
「大丈夫!」
息を切らしながら走る後ろ姿は、まるで20年前の自分を見ているかのよう――