それから、火曜と金曜の学校帰りは、神社の境内に寄るようになった。
結陽さんは、神社の管理者の神主に許可を取って絵を描いているらしい。
時々、話している姿を見かけた。
新緑が萌える頃は、木々の色味と同様に、空の色もはっきりと濃い。
まだ湿り気を含んだ空の水色に灰色が少しずつ混じると、梅雨入りが近い。
ほんの少し陰った水色の晴れ空も、俺は好きだ。
「今日は晴れているから、結陽さん、いるかな」
電車を降りて走る。
神社の境内に結陽さんの姿を見付けた。
声をかけるより早く、俺の姿に気が付いた結陽さんが手を上げた。
「夏希君、待っていたんです。来てくれて良かった」
笑顔で待っていた、と言われて、ドキリとした。
「今日ね、神主さんにお菓子を貰ったんです、夏希君の分もって」
「俺の分もですか?」
「はい。いつも一緒の学生さんにもって、くれたんですよ。近所のケーキ屋さんのマドレーヌだそうです」
神社の管理者にいつも一緒と思われる程度には、一緒にいるらしい。
火曜と金曜、確実に狙ってきているから、自覚はある。
ゴールデンウィーク中は結陽さんが毎日いるというので、毎日来ていた。
(見られてるのかな。バレてるのは、恥ずかしい)
そんなことを思いながら、ペットボトルを取り出した。
「今日、ちょっと暑いから、飲みもの、買って来ました。レモンティーとストレートティー、どっちがいいですか?」
「ありがとう。じゃぁ、レモンティーを頂きます」
隣に腰掛けて、頂いたマドレーヌを食べる。
袋の後ろに書かれた店名に見覚えがあった。確か、少し前まで母親がパートで働いていた店だ。
「このケーキ屋さん、俺の家の近所かも」
「そうなんですか? 夏希君の家は、この辺りなんですね」
そういえば、家の話はしたことがなかったかもしれない。
「俺はここが地元です。結陽さんも、この辺ですか?」
ドキドキしながら聞いてみた。
こういう機会でもないとプライベートに踏み込んだ質問はしづらい。
「大学の近くで一人暮らしをしています。出身は和歌山ですよ」
「西の人なんですね。やっぱり関東は色々違いますか?」
結陽の話し方は訛りがないから、わからなかった。しかし、よく思い返せば言葉のイントネーションなんかは、関西系かもしれない。
言葉や食べ物など、きっと微妙に違いがあるんだろう。
有名なうどんのカップヌードルが西と東で味を変えて売り出しているくらいだ。
食べ物の味付けは特に違うんだろうと思う。
「そうですね。僕は自然が多い田舎から出てきたので、関東は小さいというか、狭いと思います」
「小さい、ですか?」
予想外の返答に、聞き返した。
「視界に映る木や川や空、一つ一つが小さい。見える空が狭くて小さい。きっとそれが、この土地の個性なんだろうと思います」
結陽さんのいう「小さい」の意味が、よくわからなかった。
「今はその違いが楽しいです。空の色もね、やっぱり少し違うんですよ」
「どんなふうに、違いますか?」
ちょっと前のめりになった。
違う土地の空の色には興味がある。
「和歌山の空が広いのは、遮るものがないからで、遠くまで見渡せるんですが。空の端っこに向かってどんどん薄くなる水色が、とても綺麗なんです。決して白にはならないのに白みたいな色をしてね。雲とは違う淡い色をした、空の端っこ。夏希君にも、見せたいです」
結陽さんの目が懐かしそうに細まった。
だけど、その目はどこか、悲しそうにも映った。
「空の端っこ……。見てみたいです。白みたいな水色をした、広い空の向こう」
幻想的な空と結陽の姿は、きっと入り混じって美しい。
結陽さんと一緒に見たいです。そう言いたかったけど、言えなかった。
結陽さんは、神社の管理者の神主に許可を取って絵を描いているらしい。
時々、話している姿を見かけた。
新緑が萌える頃は、木々の色味と同様に、空の色もはっきりと濃い。
まだ湿り気を含んだ空の水色に灰色が少しずつ混じると、梅雨入りが近い。
ほんの少し陰った水色の晴れ空も、俺は好きだ。
「今日は晴れているから、結陽さん、いるかな」
電車を降りて走る。
神社の境内に結陽さんの姿を見付けた。
声をかけるより早く、俺の姿に気が付いた結陽さんが手を上げた。
「夏希君、待っていたんです。来てくれて良かった」
笑顔で待っていた、と言われて、ドキリとした。
「今日ね、神主さんにお菓子を貰ったんです、夏希君の分もって」
「俺の分もですか?」
「はい。いつも一緒の学生さんにもって、くれたんですよ。近所のケーキ屋さんのマドレーヌだそうです」
神社の管理者にいつも一緒と思われる程度には、一緒にいるらしい。
火曜と金曜、確実に狙ってきているから、自覚はある。
ゴールデンウィーク中は結陽さんが毎日いるというので、毎日来ていた。
(見られてるのかな。バレてるのは、恥ずかしい)
そんなことを思いながら、ペットボトルを取り出した。
「今日、ちょっと暑いから、飲みもの、買って来ました。レモンティーとストレートティー、どっちがいいですか?」
「ありがとう。じゃぁ、レモンティーを頂きます」
隣に腰掛けて、頂いたマドレーヌを食べる。
袋の後ろに書かれた店名に見覚えがあった。確か、少し前まで母親がパートで働いていた店だ。
「このケーキ屋さん、俺の家の近所かも」
「そうなんですか? 夏希君の家は、この辺りなんですね」
そういえば、家の話はしたことがなかったかもしれない。
「俺はここが地元です。結陽さんも、この辺ですか?」
ドキドキしながら聞いてみた。
こういう機会でもないとプライベートに踏み込んだ質問はしづらい。
「大学の近くで一人暮らしをしています。出身は和歌山ですよ」
「西の人なんですね。やっぱり関東は色々違いますか?」
結陽の話し方は訛りがないから、わからなかった。しかし、よく思い返せば言葉のイントネーションなんかは、関西系かもしれない。
言葉や食べ物など、きっと微妙に違いがあるんだろう。
有名なうどんのカップヌードルが西と東で味を変えて売り出しているくらいだ。
食べ物の味付けは特に違うんだろうと思う。
「そうですね。僕は自然が多い田舎から出てきたので、関東は小さいというか、狭いと思います」
「小さい、ですか?」
予想外の返答に、聞き返した。
「視界に映る木や川や空、一つ一つが小さい。見える空が狭くて小さい。きっとそれが、この土地の個性なんだろうと思います」
結陽さんのいう「小さい」の意味が、よくわからなかった。
「今はその違いが楽しいです。空の色もね、やっぱり少し違うんですよ」
「どんなふうに、違いますか?」
ちょっと前のめりになった。
違う土地の空の色には興味がある。
「和歌山の空が広いのは、遮るものがないからで、遠くまで見渡せるんですが。空の端っこに向かってどんどん薄くなる水色が、とても綺麗なんです。決して白にはならないのに白みたいな色をしてね。雲とは違う淡い色をした、空の端っこ。夏希君にも、見せたいです」
結陽さんの目が懐かしそうに細まった。
だけど、その目はどこか、悲しそうにも映った。
「空の端っこ……。見てみたいです。白みたいな水色をした、広い空の向こう」
幻想的な空と結陽の姿は、きっと入り混じって美しい。
結陽さんと一緒に見たいです。そう言いたかったけど、言えなかった。

