コーヒーを飲みながら、ケーキ屋さんの焼き菓子を楽しむ。
前に一緒に食べたマドレーヌのお店だと話したら、結陽は喜んでくれた。
「このケーキ屋さんの焼き菓子、美味しいね」
「オススメはバームクーヘンだよ。ケーキも美味しくて、有名なのがモンブランだったと思う」
昔は母親が、売れ残りのケーキを社販で安く買ってきていたから、常に家にお菓子があった。
「ケーキも食べてみたいなぁ。今度、行ってみようかな」
「一緒に行く? 母親が昔、パートしてたから、ケーキ屋さんも俺のこと知ってると思うけど」
「そうなの? やっぱり有名人だね」
「だから、違う」
行動範囲がガチの地元というだけだ。
夏希の表情を見て、結陽が笑った。
「あのね、夏希君にお土産があるんだ。まずは、これ」
結陽が差し出したのは、『熊野速玉大社』と書かれた神社でよく見る袋だった。
「これ、御守り?」
袋の中身は黒地に鴉が刺繍された御守りだった。星のようなきらめきが烏の周りに白く刺繍されて、とても綺麗だ。
勝守りと書いてある。とても御利益がありそうな迫力を感じた。
「八咫烏だ」
「八咫烏、知ってる?」
「ん、サッカーのユニフォームで、知ってる」
「そっか、そっちのほうが有名か。神話に出てくるんだけど、熊野の烏なんだよ。三本足の大きな烏。だから、瑞鳥として熊野三山では護符になったりしてるんだ」
「そうなんだ。御利益ある烏なんだね。御守りの刺繍が綺麗。星空を烏が羽ばたいているみたいだね」
「八咫烏は導きの鳥、道行を示してくれる鳥だからね。夏希君の受験が良い方向に進みますようにっていう、御守り」
夏希は勝守りを、そっと撫でた。
「ありがとう。受験、がんばる」
見上げたら、結陽が夏希の頭を撫でた。
「速玉大社の境内には樹齢千年の梛の木があってね。天を突くほどに高い木で、緑の葉が茂っているんだ。子供の頃は、見上げると木の先が空に刺さっちゃうんじゃないかって思うほどで、ちょっと怖かったな。梛の木と空も一緒に見ると、とても絵になるよ」
「結陽さんは、そういう絵、描いたことあるの?」
「うん、あるよ。熊野三山を描いた絵が日本水彩画会で入賞して、僕の画家人生が始まったから。梛の木も、何度も描いた」
「そうなんだ」
結陽の言葉から、大樹と空をイメージする。
生い茂る深い緑が青い空に浮く様は、初夏の瑞々しい活気のある空が似合う気がした。
神社の社と一緒に見たら、どれだけ綺麗だろうと思った。
「見てみたいな。結陽さんの絵も、神社も、梛の木も」
その場所で、一緒に空を見上げたい。
「日本に戻ってきたら、一緒に見に行こうか」
「え? 行って、いいの?」
結陽にとって和歌山はまだ辛い想いでのほうが大きいのではないだろうか。
そういう場所に、夏希が土足で入り込んでいいのか、不安になる。
「夏希君に、一緒に行ってほしいんだよ。僕が生まれ育った町を、見てほしい。僕が夏希君の街を見ているように」
「行きたい。結陽さんが大丈夫って思えるなら、連れて行ってほしい」
「うん、きっと一緒に行こう」
結陽の笑みが澄んでいる。
地元の話をする時はどこか陰りを帯びていた結陽の、今までの顔とは違う。
今なら、一緒に行っても大丈夫だと思えた。
前に一緒に食べたマドレーヌのお店だと話したら、結陽は喜んでくれた。
「このケーキ屋さんの焼き菓子、美味しいね」
「オススメはバームクーヘンだよ。ケーキも美味しくて、有名なのがモンブランだったと思う」
昔は母親が、売れ残りのケーキを社販で安く買ってきていたから、常に家にお菓子があった。
「ケーキも食べてみたいなぁ。今度、行ってみようかな」
「一緒に行く? 母親が昔、パートしてたから、ケーキ屋さんも俺のこと知ってると思うけど」
「そうなの? やっぱり有名人だね」
「だから、違う」
行動範囲がガチの地元というだけだ。
夏希の表情を見て、結陽が笑った。
「あのね、夏希君にお土産があるんだ。まずは、これ」
結陽が差し出したのは、『熊野速玉大社』と書かれた神社でよく見る袋だった。
「これ、御守り?」
袋の中身は黒地に鴉が刺繍された御守りだった。星のようなきらめきが烏の周りに白く刺繍されて、とても綺麗だ。
勝守りと書いてある。とても御利益がありそうな迫力を感じた。
「八咫烏だ」
「八咫烏、知ってる?」
「ん、サッカーのユニフォームで、知ってる」
「そっか、そっちのほうが有名か。神話に出てくるんだけど、熊野の烏なんだよ。三本足の大きな烏。だから、瑞鳥として熊野三山では護符になったりしてるんだ」
「そうなんだ。御利益ある烏なんだね。御守りの刺繍が綺麗。星空を烏が羽ばたいているみたいだね」
「八咫烏は導きの鳥、道行を示してくれる鳥だからね。夏希君の受験が良い方向に進みますようにっていう、御守り」
夏希は勝守りを、そっと撫でた。
「ありがとう。受験、がんばる」
見上げたら、結陽が夏希の頭を撫でた。
「速玉大社の境内には樹齢千年の梛の木があってね。天を突くほどに高い木で、緑の葉が茂っているんだ。子供の頃は、見上げると木の先が空に刺さっちゃうんじゃないかって思うほどで、ちょっと怖かったな。梛の木と空も一緒に見ると、とても絵になるよ」
「結陽さんは、そういう絵、描いたことあるの?」
「うん、あるよ。熊野三山を描いた絵が日本水彩画会で入賞して、僕の画家人生が始まったから。梛の木も、何度も描いた」
「そうなんだ」
結陽の言葉から、大樹と空をイメージする。
生い茂る深い緑が青い空に浮く様は、初夏の瑞々しい活気のある空が似合う気がした。
神社の社と一緒に見たら、どれだけ綺麗だろうと思った。
「見てみたいな。結陽さんの絵も、神社も、梛の木も」
その場所で、一緒に空を見上げたい。
「日本に戻ってきたら、一緒に見に行こうか」
「え? 行って、いいの?」
結陽にとって和歌山はまだ辛い想いでのほうが大きいのではないだろうか。
そういう場所に、夏希が土足で入り込んでいいのか、不安になる。
「夏希君に、一緒に行ってほしいんだよ。僕が生まれ育った町を、見てほしい。僕が夏希君の街を見ているように」
「行きたい。結陽さんが大丈夫って思えるなら、連れて行ってほしい」
「うん、きっと一緒に行こう」
結陽の笑みが澄んでいる。
地元の話をする時はどこか陰りを帯びていた結陽の、今までの顔とは違う。
今なら、一緒に行っても大丈夫だと思えた。



