君が待ちわびる黄昏で

 カーテンの隙間から、白い光が忍び込む。
 休日の朝はゆっくりで、空はきっともう水色だ。

「……ん」

 揺れる光が瞼の上を掠めて、目が覚めた。
 後ろで、もぞりと結陽が動いた。
 いつもは向き合って寝ていることが多いのに、今朝は後ろから抱きしめられている。
 体がぴったりくっついて、腕が夏希を拘束している感じだ。

(いつもより距離が近い。なんで………………ぁ、……ぁあ!)

 昨晩の結陽と自分が頭を過って、かっと顔が熱くなった。

(俺、昨日の夜、結陽さんと……)

 ちらりと目だけで後ろの結陽を窺う。
 良く見えないが寝息が聞こえるから、まだ寝ているようだ。
 夏希は、そっと結陽の手に手を重ねた。

(手、震えてない。寝てるからかもだけど、昨日の夜も、震えてなかった。無理してる感じでも、なかった)

 自分も余裕がなかったから、よく覚えていないのだが。
 ほとんど結陽にされるがままでしか、なかったのだが。

(起きてから、結陽さんが後悔とかしてないと、いいな。俺は、嬉しかったから)

 結陽の手が夏希の頬を掠めた。

「夏希……、おはよ」

 耳元で朝の挨拶を囁かれて、吐息を吹きかけられた。
 ぞわりと甘く痺れて、体が震えた。

「お! おはよ、結陽さん……」

 ドキドキしすぎて、声が上擦る。
 ちょっとずつ振り返る。結陽の顔が、笑んで見えた。
 向き合って、結陽の手を握る。

「怖く、なかった? 辛くなかった?」

 微笑んだ結陽の唇が、夏希の鼻に口付けた。

「それ、僕の台詞だよ。体、痛くない?」
「え? うん。軽い違和感、くらい」

 結陽の手が夏希の尻を、するりと撫でた。

「夏希は、怖くなかった?」

 不安そうな目が、夏希を見詰める。
 不意に、個展の時の結陽の言葉を思い出した。

『もしかしたら僕は、君を傷付けるかもしれないけど、それでも側にいてほしい』

 自分が傷付くこと、それ以上に相手を傷付けることを、結陽は恐れている。

(こういうことだけじゃない。結陽さんは、俺を傷付けないようにって、いつでも気を遣ってくれる)

「怖くなかったし、結陽さんじゃなきゃ嫌だから。俺は、嬉しいよ」

 結陽の腕が、ふわりと懐くを包んだ。

「僕も、嬉しい。震えなかったし、怖くなかったんだ。今だって、こんなに触れられる。幸せで、どうにかなりそう」
「今は、どうにかなっちゃっていいよ。俺も、同じくらい、幸せ」

 結陽の手が震えていなくて、しっかりと熱を持っている。
 それが嬉しくて、夏希はやっと安心できた。

「夏希となら、こんな風に色んなこと、乗り越えていけるね」
「うん。辛いことも大変なことも、二人で乗り越えて、楽しい話、たくさんしよう」

 結陽の背中に腕を回す。
 いつも抱きしめてもらう体を力いっぱい抱き返す。
 普段は感じない熱を感じられる朝が、幸せだった。