…次の日の朝…

隣で眠る彼女をみて、猫が眠る。

長い睫毛を見つめて、二花が
閉じた目蓋をゆっくりあけた。

「…おはよう。」

目を開けると、猫になった
優しい彼がいる。

「…おはよう。」

お揃いの歯ブラシがコップに揺れて、
一緒に使った櫛がドレッサーにうつる。

服を着て、二人でキッチンにおりた。

「…おはよう‐!」

…夢海が元気に挨拶する声が聞こえる。

二人でキッチンに来る姿をみたら、

「…あれ?新婚さん?」

夢海がくすっと笑った。

「…そっか。」

「さぁ、今日は、
この花琴宮で秋ノ猫祭り♥だよ!」

…夢海が朝ご飯を作り始める。

みんながキッチンに座って、
朝ご飯を待ってたら、膝の上の猫が

くるりんとひっくり返って回った。

……                      ……
 …                      …

お昼からふらっと
一人で蕾が魚屋さんに行く。

「…鯛に、烏賊に、鮭に。」

魚屋さんに魚を頼むと、
猫が魚をもらいに来た。

魚屋さんが猫に餌やりをしていて、
蕾が言った魚をもらう。

猫が魚を食べてて、お代を払う。

秋の鱗雲が浮かぶ空の下、
街中を歩いていった。


❀❀❀


「…蕾‐!」

…lu lu lu lu…

「…猫電話とって‐!」

…夢海が言う。

「…はい。花琴宮です。」

「…はい。はい。分かりました。」

…蕾が頷く。

…カチャン。

「…隣んちの立花さん、
結婚式うちで挙げるって。」

「…そう。分かった。」

二ノ丸で炊事をしていた蕾の
花稲荷を結ぶ手に米粒がつく。

ニンジンを千切りにした後、
細切れにして、湯がいて寿司桶に入れる。

椎茸を煮詰めて、切っていく。

「…なになに。何作ってるの。」

…二花が言った。

「…花形の稲荷寿司♥」

二花が出来上がった稲荷寿司を
一つ手にとって、ぱくっと食べる。

「…一口、ちょ‐だい♪」

牛蒡と蓮根を細切れにして、
煮詰めて、酢飯に混ぜる。

「…あ!ちょっと!」

「…も‐いっこ、も‐らいッ♪」

隣で聞いていた鎌足が
花形の稲荷寿司を口の中で頬張る。

「…もう。」

口を尖らせて蕾が言った。

酢飯を作って、
寿司の具を入れて混ぜると、

杓文字で花形の稲荷の皮に
寿司飯を詰めてゆく。

花形で花柄の稲荷寿司を
作って、お皿においてゆく。

「…はい、祖谷そば。」

カラフルな色蕎麦を蕾が持ってきた。

…色蕎麦を湯がいて、
お湯に色が出るまで湯がいていった。

「…綺麗に色が出た。」

「…お。うまそ‐じゃん。」

…鎌足が言った。

座敷のファンヒーターの前で
包まった猫が鎌足に背中をさわられる。

「…鎌足‐、そば鉢とって!」

…蕾が声を張り上げた。

「…ほいほい♪」

「…ん。」

削った鰹節を入れて、出汁を作る。

葱を切って、蒲鉾を添える。

「…ありがと。」

そして、帆立の貝柱を置いて、
祖谷そばを鉢に入れる。

二ノ丸でお祭り衣装に身を包んだ
氏子たちが大人も子どもも一緒に、お昼ご飯をとる。

…祖谷そばと花形の稲荷寿司…

「…おいしいね♥!」

人の入りが多いお祭りの端合いのなか、
騒がしい二ノ丸で子どもたちが走ってゆく。

少し肌寒い秋風が吹き込むなか、
潮の波音にまかせて、金の輿が蔵に入ってゆく。

外から屋台の声が聞こえてきて、
宮に人がまばらに入ってくる。

猫が守りをしていて、
妖たちが森を揺らし、

子どもたちがかけてゆく。

「…はいたっち‐!」

お昼ご飯の後に、外で追いかけっこして
いた子どもたちが声をかけてゆく。

「…まいった!」

はいたっちされた子が鬼を変わってゆく。

妖猫がふらっと、花琴宮の鳥居まで
やってくると…時間をみて、

「…あと、半日だにゃ。」

と、言った。

……                      ……
 …                      …

お八つの時間に花鈴が
二花と鎌足と火火手のために

柿をむいて、皿に置く。

「…夕方、一緒に祭り行こ?」

…蕾が二花を誘った。

「…うん。」

…蕾が頷いた。

テレビのなかで秋の里が
芳柳を一勝一敗の突き出しで

芳柳が勝った。

秋の相撲御所をみながら、
みんなで柿を食べた。


❀❀❀


…同じ日の夕方…

…カラン。…コロン。
…カラン。…コロン。

…夕茜に染まる街並み… 下駄の音。

…汐入の社に金の輿が入る。

深い藍色に金糸の入った
赤い花柄の浴衣を

蕾が着ていて、二花が
同じ藍色の甚兵衛を着ていた。

…秋だから厚手のコートを羽織って…。

「……。」

二人が手をつないで、
ぼんぼりのついた街並みを歩いてゆく。

金の猫の輿を担いだ人がたくさん
溢れていて、街を練り歩いてゆく。

蕾の唇にのったジェルリップが光る。

蕾の長いパーマのロングヘアを
ティアラアップにして、

三つの桃色のリボンを重ねた髪飾りに
ポンパドールをしていた。

夕暮れの宵空から三日月がかたぶき、
金の輿が由良ゆら揺れる。

金の輿の人の流れについていくと、
太鼓の音が響いて、笛が鳴る。

屋台の匂いがして、イカ焼きや
りんご飴が道脇に並んでいる。

二人で、お参りをした後、
ぶらぶら屋台歩きをした。

紅葉が浮かんだ手水を左手、
右手、左手の順に水を注いで洗ってゆく。

鳥居をくぐると、道の端を通り、
太鼓橋を渡って、外苑に出た。

…さらえた小石を踏む音がする。

提灯の火が灯る社の階段を登り、
人混みのなか小銭を入れて、礼をする。

…なむはんにゃらげそわか…

両手を合わせて、呪文を唱える。

鎌足が猫を抱えて、お参り中に
蕾の後ろからぷにっと猫の手を指して、

「…なによ!もう!」

って笑って言った。

相撲の奉納があって、
秋の猫相撲をしていた。

子どもたちが作った手作りの
土俵に紅葉が舞い落ちて、

とても可愛いかった。

猫同士がふんどしをして、
土俵で腰を下ろしている。

…はっけよい!

…のこった!のこった!

猫が回しを掴んで、
突き落とししている。

茶の猫が土俵から落ちて、
黒猫が勝った。

相撲を一幕見終わると、

階段を降りて、屋台の続く、
桜の並木道に出る。

二人、手をつないで行くと、
立ち並ぶ店の前に金魚掬いがみえた。

金魚掬いの前まで行くと、
子どもたちが金魚を掬いながら

わいわい話し合っている。

「…網、一つ。」

金魚の網を一つ、屋台のおじさんに
もらうと、一匹二匹と掬い始めた。

「…一匹、逃げたよ!」

…子どものお化けが言った。

「…どれ。」

二花が隣に座って眺めた。

隣に蕾がしゃがもうとして、
着物の裾を踏んづけた。

「…大丈夫?」

よろめいた蕾を二花が
抱きしめて止めた。

「…あ、破けた。」

「…大丈夫。」

途中、金魚が掬えなくて水を掬った
空の網が破けて、おじさんに網を返した。

…どきどきと胸が高鳴る。

「…に‐ちゃんたち仲良いねぇ!」

おじさんが網を子どもに渡して言った。

「…わぁ。」

掬った金魚を手渡して、
蕾が二花から金魚をもらった。

蕾が両手で受け取ると、

「…可愛い。」

金魚がぱしゃんと水の中で跳ねた。

たくさんの人がいる屋台の並木道を
何か話して二人、歩いてゆく。

ぼんぼりの光に照らされて、
頬がきらきら明る。

「…ん?」

「…ついてる。」

イカ焼きの甘ダレが口についてて、
指で指してはふふっと笑う。

「…うまっ。」

蕾のイカ焼きを鎌足が食べて、
ふと、二花をみては

「…何。」って言う。

「…やきもち。」

…イカ焼きを差し出す。

「…やく?」

…蕾がふわりと微笑む。

「…やく‐♪」

…火火手と鎌足と二花が
声を揃えて言った。

火火手がお面を買って、
花鈴がりんご飴を食べた。

猫が盆踊りをし始めて、
団扇を持って一緒に踊った。

……                      ……
 …                      …

二花の携帯Telのアプリ〈あきった‐〉を開く。

…あき‐とのログ…

「…あきった‐に、あき‐と。」

…二花が蕾に言った。


〈…秋祭りッ♥!

二花と蕾のdeteちゅう♥*·°

イカ焼き一緒に
買って食べたよ♥

「一口ほしい♥」って
結ってくれたみたいッ♫

後は、二人で
リンゴ飴買おうって

…由良ゆら揺れる…
…姫リンゴっ♥〉

すると、フォロワーの蕾が
タイムラインで二花のログが流れたら、

お揃いであき‐とする。

〈蕾が朝から浴衣着てて、
くるくるパーマをふわっと

絡ませて、
秋の終わりの鈴虫の声が

聞こえる…彼との二た人の
秋祭りの帰り道…♥*·°

二花という君が
つないでくれた…手名ごコろ♥

…夕宵宮夜の風が吹く…

君がそばにいて、
「一緒に帰ろう♥」って結って、

kiss me♥…love♥〉

次の、あき‐とも蕾が
タイムラインで流した。

〈みんなの前で
Kiss♥してくれた…♥*·°

…気づいていない私に、

いつもどうり♥
…待ち合わせの場所…

呼び出した行き道…

みかけた
イライラした彼の姿…♥*·°

…炭焦げたイカ焼きの香り…

…カラン。…コロン。

下駄のおかげ音 花の髪飾り
赤い花柄の浴衣 花色の手さげ

…そばにいて♥

…鳴らしてゆっくり歩く長い道…

口ずさむ…はやり歌

…田畑のなか、虫の鳴く
暗い夜道を二た人で歩く…

ふと、想い出したのは

…リンゴ飴を食べたときに
香る髪のシャンプーの匂い…♥

二花とすれ違う…love♥

…急ぎ足の人たち
子ども達の笑い声

…並ぶ屋台のなか…

…君と踊った秋の空♥

街なかの灯籠 木立をゆく
近くの河川敷 秋海の匂い

…人たちは足早にかけてゆく…

…ドンッ♥!

…猫ノ花火が空を舞ふ…

‐…火ノ花が消えた…‐

この目を奪った秋の衣

暗闇に咲いた花の空

火薬の匂い 火の光の中
…彼名タを抱きしめた♥…〉


あきった‐をしていた
彼の顔をふと、見上げる。

「…ん?」

…彼が嬉しそうに微笑む。

「…なんでも、ない。」

…ぱっと目を背けて、
恥ずかしそうに俯いた。

…手をつなぎたい…とか、
ぎゅうと抱きしめてほしい、とか

そう想える人って、
彼だけだったなって、想った…。


灯火のつく街並みのなか

夜の踏切を走る電車を
二花と一緒にみた…。

秋祭りの終わりに、
火火手が

帰り道、手を振る君を
消えて見えなくなるまで

最後まで見送った…。

猫たちがにゃ‐と鳴いて、
秋ノ猫祭りが静かに幕を閉じた…。