次の日、目が覚めれば
二花は猫から人に戻っていた。
まだ寒いお布団のなかで、
蕾は毛布を引っ張り、静かに眠る…。
扉から猫が入ってきて、
布団の上に包まった。
「…まだ眠いよ。」
赤いお布団のなかでもぞもぞして、
足を動かすと、猫が隙間から
潜ってきてごろんと転がる。
「…二花。」
「…もう、猫じゃないよ。」
…ど‐ゆうこと…?
「…うわ!」
ぐるんと転がると、
ベッドから落ちて猫が鳴いた。
「…にゃ‐。」
「…なんで、俺が寝てるの。」
…そして、
ベッドの上から猫が転がると、
ドスン!と音がして、
「…ぐえ!」
って二花が叫んだ。
「…ごめん。」
「…重い…。」
二花が蕾を抱きしめて、
間に落ちた猫を離した。
「…重いって、ど‐ゆ‐ことよ!」
「…そのまんまの意味。」
「…あ‐いえば、こ‐いう!」
二花ががばっと布団を払い落として、
白いシャツを掴んで、上から被った。
薄紫のカーディガンを肩からかけて、
朝日の差し込む窓辺から海をみる…。
「…綺麗。」
「…そうだ!散歩しない?」
「…先、行っといて。」
「…いいよ。」
秋空の広がる海辺の通り道を、
小高い丘を越えて、砂浜を歩いてゆく。
薄いパジャマにカーディガンを羽織って、
鈍色の海をゆっくり行く。
弓なりの海の道で砂浜の小石を
蹴っては転がし、蹴っては転がして
猫と一緒に歩いてゆく。
「…お待たせ。」
待ち合わせた二花と
テトラポットの上で少し話をした。
「…猫は?」
「…ここ。」
蕾が猫を抱っこして、持つ。
猫の首をかしかし搔いて、
二花が猫を撫でる。
「…今日は二人で出かけて、
猫タウンにでも行こう。」
「…うん。」
「…午後から会社休みだから。」
朝の海辺…テトラポットの上で
二人が抱きしめ合う。
猫がそんな二人をあたたかく見守っていた…。
…… …·…
… …
家でお弁当さんを作っていて、
会社に行った二花に届けに行く。
「…ウインナーさん、入れて。」
妖狐のショコラがやってきて、
お弁当さんを詰める。
「…玉子焼きもいるよ。」
蕾が黄色い玉子焼きを端に入れる。
ほうれん草のお浸しを詰めて、
冷凍のグラタンを入れて、少し冷ます。
粗熱をとってから、
お弁当の蓋をかぶせて、
可愛い包みでくるっと巻く。
猫エプロンを外して、
ベージュのコートを着ると、
お弁当さんを二個持って、
妖狐のショコラと共に玄関を後にした。
❀❀❀
…猫会社で夢のマネージメント…
「…はい。猫会社です。」
二花がスーツを着て、働いている。
「…はい。はい。」
電話口の相談があって、
すらすら受け答えができている。
電話を切ると、会社に蕾がやって来た。
「…すみません。」
小さな会社のドアのところに、蕾が立っている。
デスクに座っていた二花が立ち上がると、
蕾のところまで来て言った。
「…何。急に…。」
「…お弁当。」
両手でお弁当を持って、
心配そうに見上げる。
「…お仕事、順調?」
「…うん。」
同じ会社の同期の拓人が話しかけてくる。
「…ちょっと休憩したら?」
「…いいの?」
「…うん。」
…拓人が忙しそうに言った。
「…じゃあ、ちょっと行ってきます。」
「…うん。」
港町に海の水が入ってきて、
灯台の下に船が並ぶ。
猫が港町を歩いていて、
二人が路地裏のカフェに入った。
「…猫モカ、一つ。」
「…じゃあ、私も。」
静かな店内に音楽が流れていて、
マスターが猫モカを入れてくれる。
二花がネクタイをゆるめて、蕾をみた。
「…不機嫌。」
「…そんなことないよ。」
「…うそ。」
「…ほんと。」
…だって、同僚の小宮さん、可愛いんだもの。
「…猫だから忘れたの?」
…猫モカのクリームの味が広がる。
「…猫頭。」
「…猫頭はお前のほう!」
「…にゃ‐!!!」
猫モカがテーブルに届いた。
砂糖を入れて、一口飲むと
甘い香りが広がる…。
「…お昼には帰るから。」
「…お昼ご飯、一緒に食べる?」
「…あと、1時間でしょ?」
…蕾が猫モカを飲んで言った。
「…うん。」
「…じゃあ、近くの公園で
待ってるから一緒に食べよう?」
「…うん。」
二花がどきどきして言った。
「…待ってる。」
二花と蕾が分かれた後、二花は会社に戻り、
蕾は酒屋さんに寄った後、しばらく、
そこのお婆さんと話をして、猫公園へと向かった。
…… ……
… …
「…先、上がります。」
二花が会社を出て言った。
「…お疲れ‐。」
同期の拓人がデスクから顔を上げて言った。
「…なになに。嫁さんの弁当?」
「…一緒に食べるの。」
…二花が口を尖らせて言った。
「…あっそ。」
拓人が冷やかしながら言う。
「…いいじゃん。」
「…彼女。まだ。」
…二花が言った。
「…そうなんだ?」
椅子にもたれかかって拓人が言った。
「…いつか結婚するから。」
「…まぁ、落ち込まずに。」
「…結婚しろ!」
…このこの!とばかりに
二花を小突いて、拓人が笑った。
「…結婚式、呼んでね。」
「…あいよ。」
独り言のように呟いて、二花が言った。
「…結婚する。」
❀❀❀
公園のブランコに座り、
蕾が二花を待っていた。
「…お待たせ。」
二花がブランコの後ろから
手を伸ばして、蕾の目を覆うと言った。
「…びっくりした!」
「…そう?」
二花がそのまま抱きしめる。
「…うん。」
「…猫カード。」
…二花が猫カードを出して、言った。
「…いちご。…りんご。」
…カードを一枚一枚めくって、
蕾が言葉を覚えていく。
…蕾は猫だからか、
他の人より少し変わってる。
…言葉を覚えていくと共に、
二花のことを知ってゆく。
「…ひこうき。…でんしゃ。」
…………
「…お昼にする?」
「…うん!」
膝の上にお弁当さんを広げて、二人で食べた。
「…タコさんウインナー♥」
二花にちゅ‐ってして、蕾が
タコさんウインナーを食べる。
「…玉子焼き、うまっ!」
ふふっと得意げに蕾が笑う。
「…そ‐いえば、結婚式ど‐する?」
…二花が単刀直入に切り出した。
「…式場選ばなくっちゃ。」
「…どこにする?」
お弁当食べながら、
猫だった蕾のことを愛しく想う。
「…オープンガーデンもいいな。」
「…ね。」
蕾の持ってた結婚式の
雑誌を広げて、二人でみる。
鮭のお結びを手に持って、
美味しそうに二花が食べた。
秋の落ち葉の舞うなか、
公園で子ども達が遊んでいて、
幸せそうにお弁当を食べる二人を、
秋風がさらっていった。
…… ……
… …
〈 猫タウン 〉
…猫タウンだけに猫がいっぱいいる。
「…猫がたくさんいるね。」
ショッピングカートを
カラカラおして、雑貨屋さんに入る。
「…お揃いマグ♥ 」
蕾がくるんと振り向いて、マグカップをみせる。
「…どう?」
蕾がふふん、ってして含み笑いする。
「…うん、いいんじゃない?」
マグカップをカートに
入れようとして、棚に戻していた。
「…入れないの?」
「…入れるよ。」
お揃いのお箸や茶碗とかを買って、
どんどんカートに入れていく。
「…お皿、どっちがいい?」
花柄のか猫のお皿か
どっちかを二花に選んでもらう。
「…猫のが、いいっしょ。」
…二花がカゴに入れる。
「…いっぱい買ったけど、」
「…ど‐するの?」
二花が示し合わすように、そう言った。
「…お金ない。」
「…猫だから♪笑 」
蕾が言うと、
お金が魚になって、ドロン!する。
「…ちょっと‐!」
「…そ‐ゆ‐とこだけ、猫?!」
「…全部払うって。」
…二花が重たい荷物を全部持ってくれていた。
「…重。」
アナウンスが流れるなか、
二花と蕾の二人が、人混みをかき分けて
ショッピングモールを歩いていった。
「…猫なのに、お金ない!」
筒いっぱい入った
スーパーの袋がゆさゆさ揺れる。
「…猫なのに!」
「…ははは。」
…二花が顔を傾けて、笑った。
「…なんで笑うの‐!」
二人の笑い声がショッピングモールの
音楽と一緒に、楽しく流れていった。
「…明日は、遊園地だね♪」
「…うん。」
「…楽しみだね!」
…蕾が嬉しそうに言った。
…夕方の日が暮れるまで、
二人で買い物をしていた…。
…汐入の街に夕飯の煙の匂いが
立ち込めて、人々が足早に帰路につく。
…帰り道、二花と蕾が
二人で手をつないで帰る…。
「…二人で夕日をみると、
想い出がいっぱい詰まってるね。」
買い物袋をゆらゆら揺らして、
くるっと二花の回りを蕾が舞う。
猫は未来を予知することができる。
少しずつ、蕾と二花の距離が縮まって
くるのと一緒に、約束の時間が進んでくるのを感じる。
沈む夕日が二花にそう思わせる。
「…ね、…俺を、忘れないで。」
そっと、蕾を抱きしめる。
「…忘れないってば。
なんで、そんなこと言うの?」
「…なんでも。」
…海の入る夕日を二人で
手をつないで、帰る。
猫の待つ花琴宮に二人で
一緒に鳥居をくぐる。
一緒に話しするのが楽しくて
あはは、と蕾と二花が笑う。
猫がにゃ‐と、鳴いて
鎌足が出迎えた。
「…おかえり。」
…… ……
… …
二花は猫から人に戻っていた。
まだ寒いお布団のなかで、
蕾は毛布を引っ張り、静かに眠る…。
扉から猫が入ってきて、
布団の上に包まった。
「…まだ眠いよ。」
赤いお布団のなかでもぞもぞして、
足を動かすと、猫が隙間から
潜ってきてごろんと転がる。
「…二花。」
「…もう、猫じゃないよ。」
…ど‐ゆうこと…?
「…うわ!」
ぐるんと転がると、
ベッドから落ちて猫が鳴いた。
「…にゃ‐。」
「…なんで、俺が寝てるの。」
…そして、
ベッドの上から猫が転がると、
ドスン!と音がして、
「…ぐえ!」
って二花が叫んだ。
「…ごめん。」
「…重い…。」
二花が蕾を抱きしめて、
間に落ちた猫を離した。
「…重いって、ど‐ゆ‐ことよ!」
「…そのまんまの意味。」
「…あ‐いえば、こ‐いう!」
二花ががばっと布団を払い落として、
白いシャツを掴んで、上から被った。
薄紫のカーディガンを肩からかけて、
朝日の差し込む窓辺から海をみる…。
「…綺麗。」
「…そうだ!散歩しない?」
「…先、行っといて。」
「…いいよ。」
秋空の広がる海辺の通り道を、
小高い丘を越えて、砂浜を歩いてゆく。
薄いパジャマにカーディガンを羽織って、
鈍色の海をゆっくり行く。
弓なりの海の道で砂浜の小石を
蹴っては転がし、蹴っては転がして
猫と一緒に歩いてゆく。
「…お待たせ。」
待ち合わせた二花と
テトラポットの上で少し話をした。
「…猫は?」
「…ここ。」
蕾が猫を抱っこして、持つ。
猫の首をかしかし搔いて、
二花が猫を撫でる。
「…今日は二人で出かけて、
猫タウンにでも行こう。」
「…うん。」
「…午後から会社休みだから。」
朝の海辺…テトラポットの上で
二人が抱きしめ合う。
猫がそんな二人をあたたかく見守っていた…。
…… …·…
… …
家でお弁当さんを作っていて、
会社に行った二花に届けに行く。
「…ウインナーさん、入れて。」
妖狐のショコラがやってきて、
お弁当さんを詰める。
「…玉子焼きもいるよ。」
蕾が黄色い玉子焼きを端に入れる。
ほうれん草のお浸しを詰めて、
冷凍のグラタンを入れて、少し冷ます。
粗熱をとってから、
お弁当の蓋をかぶせて、
可愛い包みでくるっと巻く。
猫エプロンを外して、
ベージュのコートを着ると、
お弁当さんを二個持って、
妖狐のショコラと共に玄関を後にした。
❀❀❀
…猫会社で夢のマネージメント…
「…はい。猫会社です。」
二花がスーツを着て、働いている。
「…はい。はい。」
電話口の相談があって、
すらすら受け答えができている。
電話を切ると、会社に蕾がやって来た。
「…すみません。」
小さな会社のドアのところに、蕾が立っている。
デスクに座っていた二花が立ち上がると、
蕾のところまで来て言った。
「…何。急に…。」
「…お弁当。」
両手でお弁当を持って、
心配そうに見上げる。
「…お仕事、順調?」
「…うん。」
同じ会社の同期の拓人が話しかけてくる。
「…ちょっと休憩したら?」
「…いいの?」
「…うん。」
…拓人が忙しそうに言った。
「…じゃあ、ちょっと行ってきます。」
「…うん。」
港町に海の水が入ってきて、
灯台の下に船が並ぶ。
猫が港町を歩いていて、
二人が路地裏のカフェに入った。
「…猫モカ、一つ。」
「…じゃあ、私も。」
静かな店内に音楽が流れていて、
マスターが猫モカを入れてくれる。
二花がネクタイをゆるめて、蕾をみた。
「…不機嫌。」
「…そんなことないよ。」
「…うそ。」
「…ほんと。」
…だって、同僚の小宮さん、可愛いんだもの。
「…猫だから忘れたの?」
…猫モカのクリームの味が広がる。
「…猫頭。」
「…猫頭はお前のほう!」
「…にゃ‐!!!」
猫モカがテーブルに届いた。
砂糖を入れて、一口飲むと
甘い香りが広がる…。
「…お昼には帰るから。」
「…お昼ご飯、一緒に食べる?」
「…あと、1時間でしょ?」
…蕾が猫モカを飲んで言った。
「…うん。」
「…じゃあ、近くの公園で
待ってるから一緒に食べよう?」
「…うん。」
二花がどきどきして言った。
「…待ってる。」
二花と蕾が分かれた後、二花は会社に戻り、
蕾は酒屋さんに寄った後、しばらく、
そこのお婆さんと話をして、猫公園へと向かった。
…… ……
… …
「…先、上がります。」
二花が会社を出て言った。
「…お疲れ‐。」
同期の拓人がデスクから顔を上げて言った。
「…なになに。嫁さんの弁当?」
「…一緒に食べるの。」
…二花が口を尖らせて言った。
「…あっそ。」
拓人が冷やかしながら言う。
「…いいじゃん。」
「…彼女。まだ。」
…二花が言った。
「…そうなんだ?」
椅子にもたれかかって拓人が言った。
「…いつか結婚するから。」
「…まぁ、落ち込まずに。」
「…結婚しろ!」
…このこの!とばかりに
二花を小突いて、拓人が笑った。
「…結婚式、呼んでね。」
「…あいよ。」
独り言のように呟いて、二花が言った。
「…結婚する。」
❀❀❀
公園のブランコに座り、
蕾が二花を待っていた。
「…お待たせ。」
二花がブランコの後ろから
手を伸ばして、蕾の目を覆うと言った。
「…びっくりした!」
「…そう?」
二花がそのまま抱きしめる。
「…うん。」
「…猫カード。」
…二花が猫カードを出して、言った。
「…いちご。…りんご。」
…カードを一枚一枚めくって、
蕾が言葉を覚えていく。
…蕾は猫だからか、
他の人より少し変わってる。
…言葉を覚えていくと共に、
二花のことを知ってゆく。
「…ひこうき。…でんしゃ。」
…………
「…お昼にする?」
「…うん!」
膝の上にお弁当さんを広げて、二人で食べた。
「…タコさんウインナー♥」
二花にちゅ‐ってして、蕾が
タコさんウインナーを食べる。
「…玉子焼き、うまっ!」
ふふっと得意げに蕾が笑う。
「…そ‐いえば、結婚式ど‐する?」
…二花が単刀直入に切り出した。
「…式場選ばなくっちゃ。」
「…どこにする?」
お弁当食べながら、
猫だった蕾のことを愛しく想う。
「…オープンガーデンもいいな。」
「…ね。」
蕾の持ってた結婚式の
雑誌を広げて、二人でみる。
鮭のお結びを手に持って、
美味しそうに二花が食べた。
秋の落ち葉の舞うなか、
公園で子ども達が遊んでいて、
幸せそうにお弁当を食べる二人を、
秋風がさらっていった。
…… ……
… …
〈 猫タウン 〉
…猫タウンだけに猫がいっぱいいる。
「…猫がたくさんいるね。」
ショッピングカートを
カラカラおして、雑貨屋さんに入る。
「…お揃いマグ♥ 」
蕾がくるんと振り向いて、マグカップをみせる。
「…どう?」
蕾がふふん、ってして含み笑いする。
「…うん、いいんじゃない?」
マグカップをカートに
入れようとして、棚に戻していた。
「…入れないの?」
「…入れるよ。」
お揃いのお箸や茶碗とかを買って、
どんどんカートに入れていく。
「…お皿、どっちがいい?」
花柄のか猫のお皿か
どっちかを二花に選んでもらう。
「…猫のが、いいっしょ。」
…二花がカゴに入れる。
「…いっぱい買ったけど、」
「…ど‐するの?」
二花が示し合わすように、そう言った。
「…お金ない。」
「…猫だから♪笑 」
蕾が言うと、
お金が魚になって、ドロン!する。
「…ちょっと‐!」
「…そ‐ゆ‐とこだけ、猫?!」
「…全部払うって。」
…二花が重たい荷物を全部持ってくれていた。
「…重。」
アナウンスが流れるなか、
二花と蕾の二人が、人混みをかき分けて
ショッピングモールを歩いていった。
「…猫なのに、お金ない!」
筒いっぱい入った
スーパーの袋がゆさゆさ揺れる。
「…猫なのに!」
「…ははは。」
…二花が顔を傾けて、笑った。
「…なんで笑うの‐!」
二人の笑い声がショッピングモールの
音楽と一緒に、楽しく流れていった。
「…明日は、遊園地だね♪」
「…うん。」
「…楽しみだね!」
…蕾が嬉しそうに言った。
…夕方の日が暮れるまで、
二人で買い物をしていた…。
…汐入の街に夕飯の煙の匂いが
立ち込めて、人々が足早に帰路につく。
…帰り道、二花と蕾が
二人で手をつないで帰る…。
「…二人で夕日をみると、
想い出がいっぱい詰まってるね。」
買い物袋をゆらゆら揺らして、
くるっと二花の回りを蕾が舞う。
猫は未来を予知することができる。
少しずつ、蕾と二花の距離が縮まって
くるのと一緒に、約束の時間が進んでくるのを感じる。
沈む夕日が二花にそう思わせる。
「…ね、…俺を、忘れないで。」
そっと、蕾を抱きしめる。
「…忘れないってば。
なんで、そんなこと言うの?」
「…なんでも。」
…海の入る夕日を二人で
手をつないで、帰る。
猫の待つ花琴宮に二人で
一緒に鳥居をくぐる。
一緒に話しするのが楽しくて
あはは、と蕾と二花が笑う。
猫がにゃ‐と、鳴いて
鎌足が出迎えた。
「…おかえり。」
…… ……
… …



