「この時間出るかなぁ……」と言いながら、お母さんは時計にちらりと目をやる。
「何? 誰?」
「ん? 春菜。……最近話してないからなぁ……」
「えっ! 春おばちゃん?」
「そう。あなたも最近会ってないもんねえ」
「えー! 大好きー! 春おばちゃん!」
春おばちゃん。お母さんの妹だ。小さい頃はよく一緒に遊んでくれた。優しくていつも笑っていて……わたしは大好き。でも、2年ほど前に、突然九州に引越しをしてしまってからは、全く会っていない。
「あぁ……大丈夫みたい。ちょっと電話してくる」
お母さんはスマホを耳に当てながら、サンダルを履いて外へと出て行った。
(春おばちゃんかぁ……懐かしいなぁ)
(今、何してるんだろ)
広い公園に連れて行ってくれたり……ファミレスに連れて行ってくれたり……本当に優しくしてもらった記憶しかない。おばちゃんと話でもさせてくれようとしているのだろうか?とお母さんがおばちゃんに電話している内容を、一人想像しながら待った。
しばらくしてお母さんは、考え事をしているかのような顔で部屋に戻ってきた。
「どうだった? 何話したの?」
食い気味にお母さんに詰め寄る。
「……うーん」
「何よ? 変な話?」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃ何よ」
肘をついて考え込むお母さん。小声で「まぁ、良いか」と呟き、わたしに言った。
「今度さ、おばちゃんのとこ。行っといで」
「えっ? おばちゃんのとこって? 九州にってこと?」
「うん。来て良いって」
「あっ……そういう話してたんだ……」
「秋穂の言う通り、ちょっと疲れてそうだからね。良い気分転換になるんじゃない?」
「……」
「すっごい喜んでたよ」
「……春おばちゃんが?」
「そう。春おばちゃんも会いたがってた」
「ほんとー!? わたしも好きなんだよね! おばちゃんのこと」
「ふふっ……良かったね。昔、遊んでもらってたもんねぇ」
「そうそう! あー……久し振りだなぁ……いつ? いつ行けば良い?」
「今週末で良いんじゃない? せっかく行くから……木曜辺りに行って、日曜に帰ってきたら?」
「え? 木曜から……? 学校休んで良いの?」
「公欠使えば良いじゃない」
2年前ほど前から、わたしが住んでいる地区では年に3回まで学校を休めるようになっていた。わたしは小学校の頃から体調が悪くならない限りは、休んだことが無かったので……すっかり存在を忘れてしまっていた。
「あぁ……あったね……そんなの」
「そうそう。それ使って、行ってきたら良いわよ」
「でもさ、3日間あるなら、水曜日から行けるくない?」
「……念のため、2日間だけ使って、1日残しときなさい」
「えぇ……」
明日の月曜から水曜日までの3日間だけ頑張れば……大好きな春おばちゃんに会える。もうこれだけでやる気が出た。明日の満員電車も、何とか耐えられそうな気がしていた。
「え! お姉ちゃんどっか行くの?」
隣の部屋でテレビを見ていた秋穂がわたし達の所に飛び込んできた。
「へへー……! 春おばちゃんのとこ、行ってくる」
「ええぇ……良いなぁ……」
「あんたは、勉強あるんでしょ? べ、ん、きょ、う! ……わたしみたいにならないようにするんでしょ?」
不敵に笑ってみせる。
「……ずるいなぁ……ね、お母さん!」
「何?」
「お姉ちゃんが行くんじゃなくてさ……おばちゃんにこっち来てもらったら? そしたらさ、私達みんなで会えるじゃん!」
少し間を空けて、お母さんが優しく言った。
「それだとね、意味が無いのよ」
「あんたは勉強。受験が終わったら行って良いよ」
秋穂はぶすくれたような表情で聞いていた。
(……意味がない? どういう意味だろう?)
お母さんの言葉がちょっと引っかかるけれど……会える楽しみが勝り、それどころでは無くなっていた。
「何? 誰?」
「ん? 春菜。……最近話してないからなぁ……」
「えっ! 春おばちゃん?」
「そう。あなたも最近会ってないもんねえ」
「えー! 大好きー! 春おばちゃん!」
春おばちゃん。お母さんの妹だ。小さい頃はよく一緒に遊んでくれた。優しくていつも笑っていて……わたしは大好き。でも、2年ほど前に、突然九州に引越しをしてしまってからは、全く会っていない。
「あぁ……大丈夫みたい。ちょっと電話してくる」
お母さんはスマホを耳に当てながら、サンダルを履いて外へと出て行った。
(春おばちゃんかぁ……懐かしいなぁ)
(今、何してるんだろ)
広い公園に連れて行ってくれたり……ファミレスに連れて行ってくれたり……本当に優しくしてもらった記憶しかない。おばちゃんと話でもさせてくれようとしているのだろうか?とお母さんがおばちゃんに電話している内容を、一人想像しながら待った。
しばらくしてお母さんは、考え事をしているかのような顔で部屋に戻ってきた。
「どうだった? 何話したの?」
食い気味にお母さんに詰め寄る。
「……うーん」
「何よ? 変な話?」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃ何よ」
肘をついて考え込むお母さん。小声で「まぁ、良いか」と呟き、わたしに言った。
「今度さ、おばちゃんのとこ。行っといで」
「えっ? おばちゃんのとこって? 九州にってこと?」
「うん。来て良いって」
「あっ……そういう話してたんだ……」
「秋穂の言う通り、ちょっと疲れてそうだからね。良い気分転換になるんじゃない?」
「……」
「すっごい喜んでたよ」
「……春おばちゃんが?」
「そう。春おばちゃんも会いたがってた」
「ほんとー!? わたしも好きなんだよね! おばちゃんのこと」
「ふふっ……良かったね。昔、遊んでもらってたもんねぇ」
「そうそう! あー……久し振りだなぁ……いつ? いつ行けば良い?」
「今週末で良いんじゃない? せっかく行くから……木曜辺りに行って、日曜に帰ってきたら?」
「え? 木曜から……? 学校休んで良いの?」
「公欠使えば良いじゃない」
2年前ほど前から、わたしが住んでいる地区では年に3回まで学校を休めるようになっていた。わたしは小学校の頃から体調が悪くならない限りは、休んだことが無かったので……すっかり存在を忘れてしまっていた。
「あぁ……あったね……そんなの」
「そうそう。それ使って、行ってきたら良いわよ」
「でもさ、3日間あるなら、水曜日から行けるくない?」
「……念のため、2日間だけ使って、1日残しときなさい」
「えぇ……」
明日の月曜から水曜日までの3日間だけ頑張れば……大好きな春おばちゃんに会える。もうこれだけでやる気が出た。明日の満員電車も、何とか耐えられそうな気がしていた。
「え! お姉ちゃんどっか行くの?」
隣の部屋でテレビを見ていた秋穂がわたし達の所に飛び込んできた。
「へへー……! 春おばちゃんのとこ、行ってくる」
「ええぇ……良いなぁ……」
「あんたは、勉強あるんでしょ? べ、ん、きょ、う! ……わたしみたいにならないようにするんでしょ?」
不敵に笑ってみせる。
「……ずるいなぁ……ね、お母さん!」
「何?」
「お姉ちゃんが行くんじゃなくてさ……おばちゃんにこっち来てもらったら? そしたらさ、私達みんなで会えるじゃん!」
少し間を空けて、お母さんが優しく言った。
「それだとね、意味が無いのよ」
「あんたは勉強。受験が終わったら行って良いよ」
秋穂はぶすくれたような表情で聞いていた。
(……意味がない? どういう意味だろう?)
お母さんの言葉がちょっと引っかかるけれど……会える楽しみが勝り、それどころでは無くなっていた。



